Fall in your song!

□#03
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夕飯を食べ終えたリビングで、ソファに座って談話したりテレビを見たりとそれぞれ思い思いに過ごしているところに、使った食器を洗っていた名前と春歌が混ざる。

「あ、そう言えば」

名前の漏らした言葉に、全員がビクッとする。
今度は何を言われるのか。今日すでに二回程、何気ない言葉に驚かされてきた。
本能的に構えた彼らに、名前は気付いた様子もなく続ける。

「私、みんなに自己紹介して欲しいって言っておきながら、してもらわないまま流しちゃいましたよね」

ソファのクッションを抱きしめながら言う名前に、ほぅ、と安堵のため息を返す。

「……何ですか、ため息ついて」
「何気なく発される言葉の威力を体験させられちゃこうならざるをえねーよ」
「……ごめん、翔くんの言ってること、理解出来ないんだけど」

まあいいや。
興味を失ったように、状況からいけば単にスルーをした形で名前は続ける。

「よくよく考えれば、みなさん互いのこと知ってますよね。けど、私だけがみなさんのこと知らないし、みなさんも私のことを知らない。でもこれって、新学期のクラスと同じ状況ですよね。知ってる人もいるけど知らない人もいる。そんな時って、同じ時間を共有すればするほど互いを知ることって出来ると思うんですよ。第一、自己紹介って言っても所詮主観的自己分析。他人からしか見えない自分ってものもあると思うんです。よって結論、自己紹介は無用。名前がとりあえず分かってれば今は用が足ります」

饒舌に自己紹介論を語った名前は、リモコンを取ってチャンネルを変える。
バラエティー番組から刑事ドラマに変わり、興味のないものとそれでも何となく見ているものに分かれる。

「それと、夕食の時にも言いましたけど、私に対しては敬語を使わなくてもいいですし、呼び方もご自由に。但し、苗字は駄目です。なんか苗字で呼ばれると、仕事! って感じがして、ヤなんで」
「なら、レディも普通に話して――」
「待ってください、レンさん。レディとかそんなガラじゃないんで、やめてください。せめて名前で呼んでください。あ、あと、那月さんが良ければ、普通に話させていただきます。遮ったけど、ちゃんと聞いてますよ?」

床に座る名前とソファに座るレンとでは、目の高さは明らかにレンのが上であるため、無条件に上目遣い、なおかつ小首を傾げられた彼は、そんな仕草をかわいいと思ったのか、名前の頭を撫でる。
一方、話を振られた那月は二つ返事で承諾する。

「ところで名前ちゃん、刑事ドラマが好きなんですか?」

那月の問いかけに、名前はうーん、と微妙な言葉を返す。

「刑事ドラマがっていうのか、推理モノが好きっていうか。勧善懲悪めいてるものは好きです。だから白馬に乗った将軍の出てくる時代劇は大好きです」

どうやら名前の中では、白馬にまたがっているのは王子様ではなく、将軍様の方がツボらしい。

「渋いな」
「あはは、よく言われる。真斗くん……に限らないか、みんなは歌番組は好き?」

頷く彼らに名前は笑う。

「そうだよね。私も好きだなぁ。――あ、この人犯人」
「「えっ!?」」

まだ始まってから30分も経っていないのに、名前は確信を持った表情で指摘する。

「じゃあ、殺害動機も分かるの!?」
「や、動機は分かんないけど。音也くんは分かったの?」
「音也に分かるわけないでしょう」

小馬鹿にしたようなトキヤのセリフにむっとしたものの、実際分からないので音也は非難めいた視線を送るだけにとどめる。

「名前さん、じゃあ、なんで分かったんですか?」

興味津々と言った態で訊く春歌に抱きつきながら名前は言う。

「直感っ。春歌ちゃん、一目見た時から思ってた。かわいい。こういう類の直感だよぉ。お嫁さんにしたい!」
「えっ、えっ!?」
「おい、コラ、名前。七海が困って、る、て、な…何だよ」
「翔くんも可愛いよねっ」
「はあ!? ふざけんな、あ、バカ!」

春歌から翔に標的(ターゲット)を変えようとした名前は、クッションで滑って翔を押し倒すついでにテーブルの角に頭をぶつける。

「ぃだっ!」
「名前さん大丈夫!?」
「うん、平気。翔くん押し倒しちゃったけど。ごめんね、大丈夫? 頭打ってない?」

翔の上から退きながら気遣うと、若干怒りながら彼は体を起こす。

「バカ、お前は確実に頭打っただろ!」
「打ったけど、別に……」
「見せてみろっ」
「わぁ、平気だってば!」
「名前さん、とりあえず氷持ってきましたっ」
「ありがと、春歌ちゃん」
「なんなら俺が介抱しようか?」
「レンさんに介抱されたらぶちのめすことになりそうだから、いい。――ああ!」

勢いよくテレビに張り付いた名前に、大丈夫そうだと判断しつつ、皆が何事だと見守っていると。

「見てみて。犯人当たった!!」

拍子抜けしたのは言うまでもない。


→あとがき。
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