Fall in your song!

□#32
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夕食後、リビングでは体力の有り余った者が、身体を動かすテレビゲームをしていた。

「いっけーッ!!」

叫びながら上段からブンと腕を振り落とす音也と同じく、

「ぅおりゃーッ!!」

叫び返しながら翔が下段から腕を振り上げる。そんな二人と対照的に、真斗が冷静に腕を振るい、次に那月が笑いながら手首を返した。
そして白熱した戦いの光景を、レンと春歌がソファに座りながら観ている。
やがて絶叫と歓声が聞こえてくると、読書をしている彼の眉間に深い皺が刻まれた。

「……はぁ」

わざとらしくため息を吐くも、その意図を汲み取ろうとする者はいない。
――そう、正面に座る彼女でさえも。
じっとゲームをしているメンバーを観ているように見えるが、微動だにしない姿から何か別のことを考えているのだということが分かる。分かるのだが、残念ながらその内容については知る術がない。
選手交代をしているメンバーをその瞳に映しながらも心ここにあらずの少女に、トキヤは本を閉じて話しかけた。

「名前」
「……ん、……んぁ? ハイ、なんでしょう」
「……」

呼ばれていることに気付きはしたが理解はしていなかったらしい。数拍遅れてこちらを見た名前に、トキヤは先程とは違う意味で眉間に皺を寄せる。

「どうしました?」
「……どうって? 別にどうもしないよ。いつも通り」

はぐらかすような答えに、半眼で彼は返した。

「いつも通り、ですか。いつもの君なら、あの集団に混ざってうるさいくらいに騒いでいると思うのですが」
「……今日は静かでいいでしょう」
「いえ、気味が悪いです」

間髪入れずに返された言葉に名前の片眉が跳ね上がる。と同時に、弾けるような笑い声が彼女の耳に突き刺さった。
首を巡らせて笑った主を見れば翔で、彼ほどまでいかなくても、ゲームに参加していたメンバーは全員笑っている。
それは明らかにトキヤの発言に同意する笑い。

「ちょっと、みんなの私像って何」
「「え……」」

とたん言いづらそうに口ごもる彼らに、名前はにっこり笑った。

ぱぁんっ

「表に、出てもいいんだよ……?」

手の平に拳を打ちつける彼女にブンブンと勢いよく首が横に振られたので、名前はふぅ、と息を吐くことで気持ちを鎮める。
そしてトキヤに再び顔を向けた。

「ねえ、トキヤ」
「何ですか」

いつの間にか読書を再開していた彼は、ページをめくる。

「明日、付き合って欲しいんだけど」

静かに告げられたその一言に、トキヤの手がピクリと動いた。文字を追っていた目は驚きの色を纏って名前に向けられる。

「だめ……かな?」

珍しく不安げに瞳を揺らす彼女を、トキヤのみならず他の者も何事かと注視する。

「いえ、明日はオフですし、特にこれと言って特別な用事もありません」
「じゃあ、いい?」
「……はい」

頷くと、名前はほっとしたように顔を綻ばせた。

「ありがとう。……じゃあ私、先に寝るね」

そう言って立ち上がった彼女は手をひらりと振ってリビングから出ていく。
足音が完璧に聞こえなくなってから全員が首を傾げた。

「何かあったのだろうか」
「不安そうでしたね、名前ちゃん。怯えてるというか」

彼女にそうさせるほどの事とは何なのか。きっと余程のことなのだろうが、正直身構えてしまう。

「とりあえず、俺たちも部屋に戻るか」
「そうですね」

釈然としないまま、時計を見て皆が就寝準備に入った。


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