Fall in your song!

□#18
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今日は特番に出演する時の曲を練習しよう、と提案されて、メンバーはいつもの練習ルームで練習をしていた。
あいかわらず背もたれを前にして、そこに腕と顎を乗せながらメンバーの動きをしっかり見ていた名前は、歌声に耳を澄ます。
それぞれの長所が存分に引き出されている曲。春歌はやはりすごい。
歌い終わったところで、いつも通り、個人レッスンを開始する。

「今日はトキヤからね」

いつもなら「誰にしようかな〜」と歌いながらメンバーを順に指して決める名前が、珍しく指名した。だからトキヤは軽く身構える。
個人レッスンは隣の部屋でしている。
部屋に入って椅子に座ると、名前はトキヤの表情を見て笑った。

「『何で自分が最初なのか』って顔をしてるね」
「理由を、教えてください」
「特になし」

きっぱり答えた名前はオフボーカルの曲を流し始める。
真剣なその表情からは、当たり前だが一切のからかいの類は見受けられない。とすれば、先ほどの「特になし」は、本気で言っていることになる。

「……やはり、何も考えてないんじゃないですか?」
「あんだって?」

何も考えてないようで意外と考えている、と以前言われたことに関連させていると気付いた名前がガン飛すと、トキヤはタイミング良く歌い始める。
計算に入れて逃げられたと悟った名前はムスッとして、それでもきちんと歌を聴いている。ちなみに個人レッスンは歌のレッスンしかしないため、踊ることはめったにない。
ワンコーラス歌い終わったところで、唐突に名前は音楽を止めた。
直されるところがあるのかと楽譜を引き寄せ真剣な目を向けるトキヤ。しかし口を開いた名前は、彼の態度とは対照的な発言をする。

「前から思ってたんだけどさぁ、トキヤの歌声って色っぽいよね。甘いというか」
「…………は?」
「特にサビに多いかな? 音の高さの問題? 一定以上に盛り上がると、こう、なんか、うん……上手く説明できないな」

もどかしそうに手を動かしている彼女に、トキヤはそれでも言う。

「意味が分かりません。もしそうだったとして、何が言いたいんです?」
「ああ、ごめん。別に深い意味はないの。レベル的には、『今日も良いお天気ですねー』っていう世間話レベル」
「…………」

どんな世間話だ。

「ただ――」

言いかけて、すぐに黙り込む。
決まり悪そうな表情を見せて、続きを流そうと機械に手を伸ばす名前。

「ただ、何です?」

気になって訊くも、すぐに歌が始まってうやむやにされた。
彼が先程の仕返しをされたと気付くのは歌い終わってからである。


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