Fall in your song!

□#39
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名前は後ろ手に部屋のドアを閉めて、こちらを見て固まっている彼らから視線を逸らして落とした。
こんなところで遭遇したくなかった。そう言いたいのだろうか、彼らは。
稚早との時間が楽しかった。だからこそ、また孤独な時間が訪れるのかと思うと今からつらい。――割り切ったからと言って、痛みがなくなるわけではない。
少しでも孤独な時間を減らしたいがために、名前は稚早の服の袖を掴んだ。

「お茶、飲んでく?」
「ん、飲んで行こうかな。どうせ今日は名前のためにオフにしてたしね」

一筋名前の髪を掬って軽く口付ける。
あまりのキザな行動に、名前は半眼になって稚早を睨みつけた。

「アンタね……」
「これもドラマの練習」

勝手にリビングへと歩き出した稚早は、瞠目しているトキヤの前を不敵な笑みを浮かべながら通り過ぎる。
名前が呆れながらリビングに入ると、間もなくしてメンバーと春歌も入ってきた。
ポットを用意して茶葉の並んだ棚を思案顔で眺めていると、後ろから「アールグレイ」と注文が投げられる。

「……あのさぁ、」

私は店員じゃない、と文句を言おうとしたが、稚早はすでにマンガを読んでおり、名前は肩をすくめた。あんなに真剣な顔をして読んでいるのなら何を言ったって無駄だろう。
仕方なく缶に手を伸ばしたその時、春歌が決心したような表情でソファから立ち上がった。メンバーは作曲家の一挙一動に注目する。

「名前さん!」
「!? ……なんでしょう」

大声で名を呼ばれた名前がビックリして振り返ると、春歌が楽譜を両手で差し出してきた。

「み、見てください!」
「……ああ、うん」

ちら、と稚早を見れば読書に熱中しているので、火を止め、名前はその場で楽譜をチェックする。
一枚一枚最初から最後までじっくりと通し見る。
そんな名前をじっと、胸の前で祈るように手を組みながら見つめる春歌。
メンバーも、どんな反応を示すのかと息をつめて動向を見守る。
最後まで見て楽譜をまとめた名前は、深く息を吐きだした。場の緊張の度合いがさらに増す。
春歌と目を合わせて、名前は楽譜を返した。

「――良かったよ」

続けてにこりと笑い、名前は春歌の頭を撫でた。

「よく頑張ったね。スランプ、つらかったね」
「……っ、名前さん!」

じわ、と涙があふれてきたら止まらなくて、春歌は名前に抱きついた。
よしよし、と春歌を抱きとめて、名前は優しく背を叩く。

「ごめ…なさい……わ、たし、のせいで、みなさ…と、けんか……」

黙ってさらに抱きしめた名前は、うまく息が吸えなくて咳き込む春歌の背を撫でる。
名前はメンバーに視線を移した。

「……私が言いたいこと、解ってくれた、のかな?」

一同が真剣な顔をして頷いたので、名前は少し笑ってから春歌から離れる。

「ならいい。お茶にしようか」
「その前に」

いきなり割って入ってきたのは稚早だった。
首を巡らせて当人を見れば、こちらに読んでいたマンガを差し出している。

「続き、見せて?」
「そうやって小首を傾げて頼んでも可愛いのは女の子だけと知れ」

しばらく視線を交わらせてから同時に吹き出すと、名前はリビングを出て行く。
その後ろ姿を、稚早は目を細めて見ていた。


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