メイン(2)

□別れの季節
1ページ/1ページ

薄桃色の咲く季節。幾度となくこの風景を。この季節を感じてきたが、今日ほど切ないと思った日はないだろう。



プリンプ魔導学校は高等部まであるが、そこから先はない。つまり、そこからはみんなバラバラということだ。ふとその考えが浮かんで、危うく道を走る小学生達(であろう少年達)とぶつかりかけた。おっと、と一歩踏み出そうとした足を器用に方向転換してみせ、激突を免れる。こっちの些細な気遣いをしらない少年たちは今年からプリンプに入学するのか、背に負うカバンは新品そのもの。遠くで彼らの母親であろう二人の女性の声がした。はぁーいと元気に二人して返す様子はなんだか微笑ましい。少年たちの背を見て浮かんだのは、仲の良い二人の男女の特徴とも言える空のような青色の髪の少年とお日様のような黄色い髪の少女。彼女たちはこの春から同棲するそうだ。というのも黄色い髪の少女改めアミティが住む家からでは彼女の行く大学は少し遠く、シグが借りたと言うアパートに一緒に住むらしい。彼女の父親であるあの親バカの男はとてつもなく猛反対したが、いつもニコニコとした彼女の母親は賛成で結果、彼女の母親が父親を物理で説得させた。さすが元ヤンであって立場としては母親の方が上らしい。

本当に、彼女は羨ましいと思える存在だ。角のある自分に比べ、彼女は誰からでも愛された。それは男女関係無く。そんな存在の彼女がまさか自分のような存在にまで手を差し出すとは思えず、正直「友達になろう!」と言われたときは半信半疑だった。それぐらいに、自分の存在が嫌だと当時は思っていたのだ。こんな角ありの痛い女に、友達になろうだなんて、おかしいのではないか?

しかし、彼女は自分の存在を許し、何より誉めてくれた。優しいだの、髪が綺麗だの可愛いだの、心が綺麗だの、言われたこともない言葉を、その唇が紡いだ。

正直に、嬉しかった。それと同時に、悔しかった。彼女を取られたことが。

先程も言った空色の髪の少年改めシグは、とある日を境に積極的にアピールし始めた。好き、だの愛してる、だの可愛いだの。そこら辺にいるチャラ男かとツッコンだのは今でも覚えている。別にアミティのことがそういう意味で本気で好きだったわけではなく、軽くそう想っていたくらいだ。その気持ちは明らかにライクの方が強い。だって彼女は自分にとっては誰よりも大切な友人だった。それこそ母親や父親よりも。自分に光と、居場所をくれたお日様。それが彼女だった。


そんな彼女とも、今日でお別れ。いいや、彼女だけじゃない。あのインテリ厨ニ病のメガネやあの暴力わがまま姫のピンク頭達(この呼び方に悪意はない)ともお別れだ。自分もまた、隣町の大学に行かなくてはいけない。アミティは前々から声の仕事に興味を持っていて、大学ではその関係のクラブに入るのだとか。彼女の恋人であるシグはやはり彼女にくっついて行くようで、大学も一緒だそうだ。基本的にアミティは本気を出せばなんとかなるタイプだが、彼に至ってはもはや苦笑を通り越した真顔にしかなれないような結果を出す。そんな彼が大学に行けたのは奇跡だろう。生憎このプリンプ周辺の町は他国との関わりがない。そんな田舎町の大学は何故か殆どがレベルの高いものばかり。本当に奇跡を起こしたと思う、彼は。


「・・・リデル?」


後ろから声をかけられ危うくおかしな声が出掛けた。この声は知っている。例の彼女だ。


「アミさん・・・・・・」

「一週間ぶりだね。これから集まりにいくの?」


彼女の言う集まりとは言わばプリンプ魔導学校の卒業生が行うものだ。幸いにもピンク頭がいたおかげで大きなお店を貸しきりにできたため、そこで最後の集いをやろう!ととある誰かが企画したのだ(まったく名前の知られていない、モブだ)。まったくもって、今はそんな気分にすらなれないのに生憎それはほとんど強制にも等しいものだった。何よりも人付き合いが悪いと言われると面倒だ。行かない訳にもいかない。


「・・・髪、下ろしたんだ」

「ふぇ!!?」


ふいに私ののびた髪を彼女はさわってきた(彼女の言う通り、今は隠すことをやめ背中まで長い髪がのびている)
。あまりにも唐突過ぎて変な声が出てしまった。


「こっちの方が断然可愛いよ!!あ、だからと言って前の髪型が似合わなかった訳じゃないからね!!!?」


一人でどんどん話を進める彼女は、出会った頃に比べ肉体的にも容姿的にも大人になった彼女はやはり中身は変わらないらしい。昔と変わらない、明るい性格。


「変わらないんですね。アミさんは・・・」

「えっ、何か言った?」


何でもないです。とごまかせば彼女は若干不服そうだがそっか。と話を切り替えてくれた。


「もう、春なんだねぇ」

「そうですね、別れの季節です」

「・・・何かいつにも増してネガティブだね?」

「そうかもしれません・・・」

「・・・何かあった?」


流石に様子がおかしいことに気付いたらしい、アミティは自分より少し低めの私に目線を会わせてきた。それに反応できなかった私はバカだ。


「・・・・・・えっ?」


彼女は目を丸くした。当然だろう。


なんせ、目の前の友人が急に泣き出したのだから。


「えっえっ」


ど、どうしよう。何かしちゃったかな。というかどっか痛いのかな。大丈夫?と混乱しつつもその手は自分の背中を優しく撫でてくれて。それが嬉しくて悲しくて。


「・・・怖いんです。私」


ポツリと、泣きながら呟いたそれは、まるで親に言うようなものだった。


「新しい土地で新しい世界を見るのが、怖いんです」


知らない人々、知らない場所、知らない道、知らない世界。

多くの“知らない”がリデルを苦しめた。今までだって、アミティが居たからこそ、周りに親しめた。が、きっと新しい生活が始まれば彼女は彼女の世界に歩んでいく。彼女だけじゃない、今までずっと仲のよかった友人たちは、それぞれの道を歩み、会えなくなるだろう。

そう愚痴るように全てを話せば、彼女は考えるそぶりを見せた。怒るだろうか。それとも呆れるだろうか。無理もない。何せこれは只の自分に勇気がないから大人になりたくない、という我が儘だ。「そんなの知らない」といわれるのが当たり前なわけで。

しかしリデルに掛けられた言葉は、呆れた、という言葉でも知らない、という冷たい言葉でもなかった。


「皆、おんなじだよ」


ポンッと頭に置かれた手は先程背中を擦ってくれていた手と同じ暖かさ。とても、心地のよいものだ。そして、その声も。


「あたしだって、不安はあるよ。自分の夢が叶うかどうか。大学はどんなところだろうとか、ちゃんと友達できるかなとか・・・子供っぽい不安を抱えてる」


でも、と彼女は続けた。


「中にはラフィーナみたいに自信がある人もいるかもしれないけれど、皆あたしたちみたいに不安で不安でしょうがないと思うよ。大人、て何だろう。とか新しい生活はうまくいくの?とか・・・未知の世界に足を入れるんだもん。皆、不安だよ」


あの自信満々のラフィーナだって、多少不安を感じてるんだよ?


ニッコリと、微笑んだ彼女は、安心させるかのようにポン、ポンとリズムよく頭に手を置く。その度にしゅわしゅわと何かが溶けていくようだった。

気がつけば、涙は止まっていた。


「別れといっても、永遠の別れじゃない。死なない限り、あたしたちはリデルの友達だもん。会える可能性が、0という訳じゃないんだから。偶然町で会う、何てこともあるかもしれないじゃん?」


もしそのとき、リデルが悲しみを抱いていたのなら、あたし達が相談にのるよ。苦しいことも、悲しいことも、辛いことも楽しいことも、何でもはいていいんだよ?


しゅーと何かが消えた。頬に温かい何かが伝う。この感じは自分の涙だ。しかし今回のものは違う。不安からのではない。安心からくる、温かい涙。


キラキラと輝く月が、微笑むように私達を明るく照らしていた。



その後、[ドキドキ!自分達の未来へレッツゴー]という飲み会で(当然皆ジュース)アミティとクルーク、ラフィーナの三人と同じ大学だということに、リデルは驚き、そして赤く頬を染めた。


end

<あとがき>

長かった・・・これかきはじめたの4月ですよ?長すぎですよねすみません。反省してます。この話のリデルは私です。将来私はどうなるのだろう、という不安を感じてこんな話を書きました。リデルと私は結構似たところがありまして、なかなか人と仲良く接したり、話したりするのが苦手なんです。極度のあがり症だし。なので自分は何にたいして不安を抱えているのだろう。何がしたいのだろう。という、自分を探りつつ書いた話でした。実際、自分が目指しているものは成功しなきゃろくに生計立てられないような仕事で、しかもなれる人はほんの僅か。目指すとしたら独り暮らしにもなるし、と不安がとてつもなくあるんです。自分の未来に。知り合いと離れるのもなんか悲しいなぁと、色々不安があることをリデルに語っていただきました(;^_^)こんなに不安がってるんだ私、と自分で自分に驚くところもあったんですが(笑)ともかく、長々しい話に加え、こんな愚痴にまで付き合わせてしまい、申し訳ありません。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ