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□彼女は人形
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うちには代々伝わる人形があった。美しいアンティークドール。紅い髪をクルクルと巻いた女の子だった。

幼い頃からそれを見つめるだけで幸せになった。だってそうだろう?その子は二人っきりになったとたん、その美しい瞳を開けて、僕に微笑むのだから。

あるとき、彼女は言った。


「あなたが大人になったら、私の役目は終わり。私はまた人形に戻るよ」


彼女は悲しそうにも、嬉しそうにも捉えられる微妙な表情でそう告げた。

そんなこと止めなければ!僕は大人にならない方法を調べた。でも、子供は大人になっていく、それが世界の常識な訳で、僕は時を止めることも、自分の時間を止めることもできぬまま、成長していった。

しかしどうだろうか。大人として認められる年になっても、彼女は微笑んでいた。瞳を閉ざさず可愛らしく微笑んでいた。だとしたらあれは嘘だったのだろうか。聞いても彼女は首を横に降るだけ。明確な答えは帰ってこなかった。そのまま、また月日が経った。




「恋人ができたよ」


そう告げると彼女は大きな瞳を開けて、次の瞬間「おめでとう」と微笑んだ。



彼と出会ってから月日が経った。彼はようやく愛する人を見つけたみたい。これで彼が大人になるための階段ができた。私の役目はおしまい。

私の、正確には私たちの役目は持ち主を大人にすること。

私たちをつくったおじいさんは魔法使いの末裔。おじいさんが小さい頃見たのは大人になりきれていない、社会という広い世界に負けている人だったそうです。それを見ておじいさんは私たちアンティークドールをつくって、大人が子供の“心の状態で成長しないよいうに助ける魔法をかけたのです。

おじいさんがつくったアンティークドールは皆女の子。持ち主は男の子。

持ち主は私たちに似た女の子に恋をします。持ち主が私たちに似た運命の人を見つけたら私たちの役目は終わり。


私たちはそのまま見ないはずの夢を見て、流すはずのない涙を流して、瞳を閉じるのです。




彼女は予告もなしに瞳を閉ざしてしまった。今は娘がきゃっきゃと楽しそうに彼女で遊でいる。


「壊さないようにね」


「はぁーい」という可愛らしい声の主はまた彼女に視線を戻した。

彼女はあのときのように瞳を閉ざしたままだけど、微笑んでいた。


可愛いくて、美しいアンティークドール。娘が見つけてようやく知りました。彼女の名前はーーー林檎。

紅い髪をした眠り姫にはぴったりの名前だった。


end

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