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□名もなき子鬼の物語
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鬼の子。そう呼ばれてどれくらいたつだろうか。確か、優しい母が他界してしまってからのはず。

周りとは違う、青い髪に赤と青のオッドアイそれだけで鬼扱いなのだから、人とは単純で、そして悲しい生き物だと、改めて思った。

今日も一人で蹴る蹴鞠はつまらない。どうすればこの暇を潰せるか、と思ったときだ。

「一人で何してるの?」

幼い声が、上から降ってきた。見上げれば視界に黄色の髪が揺れるのを捉える。

それが、彼女との出会い。


蒼き鬼は黄に恋をする。




たったった。

ほら、また来た。

たったった。バタン。

倒れたのだろうか。人が倒れるような音が耳に届く。あの少女はそれでも自分のところにやって来るのだ。

「みっーつけた!」

今度は出会ったときと同じく、頭上から声がする。元気な、少女の声が。

「・・・なんで来る」

「え?友達のところに来ちゃダメなの?」


いつから友達になったんだ。その言葉は喉にとどめ、代わりに視線を少女から虫に移す。元気の良い蝶だ。とんでいる姿はまるで舞をしているかのよう。

「ねえ、今日は何して遊ぶ?」


だめなんだよ。例え君が僕に気を使って遊びに誘ってくれても、それはこの国にとって許されることじゃない。


母のように優しい君が傷つくのは、嫌なんだ。だから、優しくしないで。


ああ、なぜ僕は鬼なのか。教えてよ、神様。




名もない僕に名も知らない彼女は近づく。彼女が近づくたんびに、僕は彼女の名前が知りたくなってしまう。

どうして教えてくれないの、あたしは君のこと、知りたいよ。

なんて言ってくれる君の声も、君自身も好きなんだ。おかしいよね。君を知りたいと思うのは罪なのに、ましてや君に恋すること事態、大罪でしかない。だから僕は君に近づかない。なのに、なのにどうして、君は僕に近づいてくるの。


悲しいことを見つけちゃった。

悲しいことは君のことを知っても、触れてもいけないということ。




忌み子、鬼の子。そう、僕は鬼の子、忌み子。

彼女もまた、僕となんか関わるから忌み子。だけど君の心は綺麗だから、鬼の子じゃない。

なのにどうして?どうして大人達は彼女を連れていくの?

駄目、彼女は、彼女だけは助けてよ。その代わり僕は潔く死ぬから。

そんな言葉、大人達は聞いてくれなくて、悲しくて、不意に思った。腕にはカチカチと耳障りな手錠。

僕とあの子以外の全人類、皆イナクナレバイイノニナ。

ほらね、僕は鬼の子、汚いんだ。心がさ。

僕の目には、一粒の涙。

  


鬼の子なんかと、出会わなければ、よかったのにね。




耳障りな人間たちの声。嗚呼、本当にうるさい、聴きたくない。

隣にはまっすぐと何かを見る彼女、怖くないのだろうかと声をかけたくても、口に詰められた布のせいで何も言えない。

ふと目に入った桃色髪と緑のお団子にした亜人、きっと彼女の友達なんだ、必死に大人に彼女を助けてとせがんでる。

そんなことしても無駄。汚い大人がそんなことしてくれるわけないじゃないか。せがまれた大人は顔だけ悲しそうにしたけど、きっと心の中では笑ってる。


足元が熱い。そこはいつか見た夕焼けよりも赤い火の海。

「大丈夫だよ」

鈴のような声。彼女のこえだった。視線だけそちらに向けた。


「あたしも一緒だから。ね、向こうでは名前、教えてね」


ニッコリと微笑んだ彼女は、夕焼けに照らされて、とても幼くも、美しく見えた。

うん、きっと伝えるよ。忘れてしまっていた名前を、僕の気持ちと一緒に。

そしたら君の名前も教えてね。

笑う忌み子が二人、夕焼けの中に溶けて消えていった。





子供達の嘆き

優しい子だった。それこそ、関わるなといわれていた鬼の子と仲良くなるくらいに。わたくし達には、そんな勇気がなかった。ただし鬼の子が彼女を泣かせるようなきとがあれば殴りにいこうと、思ってた。しかし彼女は、楽しそうに鬼の子の話をするのだ。それにほっとしたのと同時に、胸騒ぎがした。

その胸騒ぎはきっと彼女の死を知らせていた。なのに気づかずに大人にすがって助けてほしいと言ったわたくし達の目に写ったのは、彼女と鬼の子が夕焼けに照らされたように燃えていったところだった。

それから空を見上げた。隣には緑のお団子、もう片方は眼鏡の男。

眼鏡の男は呟いた。

「彼女は大人に殺されたんじゃないよ」


そのあと、付け足すように呟いた。

「国に、殺されたんだ」


嗚呼、神様がいるなら教えてください。

間違っているのは彼女?大人?それとも・・・この国?


もう、何もかもが間違ってるように思えてきた。

夕焼けは、嘲笑うかのようにわたくし達を照らしていた。

† おわり †

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