捧げ物(ブック)

□(黒砂in様)優しい魔物
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夢というのは、記憶を元に作られる。例え見ていたことを忘れていても、そのことを忘れていても、記憶のすみにある記憶が、その夢を見せるのだ。



シグは、プリンプ魔道図書館にいた。理由は簡単、夢を見たからだ。その夢がたとえば大好きなものだったりとか、誰かと遊んでたりとか、おいしいものをたくさん食べるような夢だったら、シグはきっとわざわざ図書館まで来て夢のことを調べないだろう。

しかし、彼が昨夜みた夢は変わったものだった。


やれ魔女がなんだのと言って、人々が少女の処刑されるところを、楽しそうに見ているのだ。まるで、当然、とでもいうように。彼女は呟いた。小さく、誰にも聞こえない声がシグに届いたのは、きっと夢の中だからだろう。


『・・・私の大事な息子よ・・・どうか生きてください。』


そう呟いた彼女の表情は、悔しそうにも、悲しそうにも見えた。シグを驚かせたのはそれだけではない、その少女の姿は彼の親友に似ていたのだ。それが、今回シグが夢を調べる最大のきっかけとなった。不意に上から高い、少女の声がする。その少女は花が咲くような笑みを浮かべていた。


「アミティ…」


呼ばずとも誰かわるが思わず呼ばずにはいられなかった。少なくとも今のシグには。


「何を見ているの?」


彼女は興味と疑問の両方を宿した瞳でシグの手の中にある一冊の紫の本を覗いた。


「…夢?」


疑問が深まった気配がなんとなくした。そえに苦笑してシグは短くうん、と答えて言葉を紡ぐ。


「昨夜、夢を見たんだ。女の子が、処刑される夢」


チラ、とアイティを見ると真面目な瞳でこちらを見ている。続きは?と続きをせがんできたので、それだけ、と答えた。へー、という明るい声が返ってくるが、その声のおかげで(何故か)夢の彼女が残したという、魔物の子のことを思い出した。


「彼女、小さい頃に魔物に妊娠させられたんだって。ある程度育ったら子供ができて、産めるように」


「…なんだか、変わった夢を見たね」

「…うん」


夢の彼女にギロチンが落ちた瞬間。目を逸らした。でも目を開けたら見えたのは赤い血で。それで頭に浮かんだのが目の前にいる彼女だ。


―――怖い、アミティがいなくなることが。


ぶるる、と震えて、アイティに抱きついた。アミティは唐突な抱擁に驚くが、彼が何かに怯えるように震えるため、そっと背中をさすって呟いた。


「大丈夫、ほら…ね落ち着いたら外で一緒に遊ぼう」


彼がどれだけ、その言葉に救われたのか、彼女はしらない。けれど、知らなくていい。そのほうが、この温もりをもう少しだけ長く感じられる。なんて、柄にもないことをこっそり考えた。




誰からも見えない霊的存在が、シグの後ろにいた。その魂は、嬉しそうに、しかし悔しそうにシグ達を見ている。

ふと、アミティ達には見えない、魂が現れた。その魂はキラキラと、まるで宝石のように輝きを放った後、人間の・・・少女の姿になった。それをシグの体から現れる魂が見つけた。びゅん、と音をたてて、少女に近づく。少女は嬉しそうにそうに頬を緩め、その魂を抱き締めた。


夕日に照らされる図書館で、抱き締められた二人の少年。その表情はまさに幸せそのものだった。


end

遅くなってごめんね・・・!クロちゃん誕生日おめでとう♪

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