キャラなう。

キャラの気持ちを聞いてみる?
それともなんでも(!?)探偵団のレポートを見る?
◆ソルティ・ドロップ 

※若干シリアス
※五十嵐+筧

遠くから聞こえる喧騒に混じる、ゆったりとしたジャズが耳を擽る。
カラン、と汗を掻いたグラスを軽く揺らせば、淡いレモン色の液体が小さく音を立てて揺れた。
悠然とした動作でグラスに口づければ、苦味が売りのフルーツの爽やかさと、縁を飾る塩のしょっぱさが口内で溶け合う。

うん、美味しい。
形の良い薄い唇を小さく吊り上げ、しょっぱい縁から溢れた言葉に、隣に座る黒髪の男は小さく笑みを溢した。

店内を妖しく彩る、淡い光に照らされる黒髪は艶やかさを際立たせる。
それに加え、元々の精悍な美貌に切れ長の黒曜石の瞳、そしてゴツゴツとした男らしい指を飾る銀の指輪に、凛と澄んだ低い声。
あぁ、そこらの女の子が彼の隣にいたら卒倒するんだろうなあ、なんて。

己が嚥下する液体よりも、度数の高いものが注がれているグラスを煽る姿を目にしつつ、ぼんやりと思っていれば「で?」と優しいながらも、何処か強いれているような言葉が投げ掛けられた。

「…らしくねぇじゃねぇか、オマエがこんなとこで一人飲んでるなんてよ」

いつもあのバカか他の奴とだろ?と呆れたように言いながらも、頬を緩ませる姿に自然と自分の頬も緩んでしまう。

確かにここのお酒は美味しくて大好きだし、来店する…いな「居座っている」理由の中にそれが含まれている。
しかし、本音を言えば愛しくて仕方がない赤い彼や、そんな赤い彼の友人である藍色の彼、今共に飲んでる黒い彼や、他の仲間といるのが楽しいからだ。

しかし今日は、違う。
珍しく、久々に、一人で飲んでいたのだ。
決まってそれをする時は、俺自身が何かに気を紛らわしたい時。
…ま、滅多にないけど、ね。

普段ぶっきらぼうで横暴な黒い彼は、意外に優しい。
能ある鷹は爪を隠すではないけれど、心に秘めた優しさは他人が本当に傷ついている時にしか見せない。
だからこそ、そんな黒い彼の優しさにちゃんと気づけた彼の恋人は、黒い彼とお似合いだと思う。

時たまに黒い彼が溢す恋人への想いは、聞いているこっちが呆れてしまう程、いや微笑まし過ぎて笑みが溢れる程、甘い。
そう、…このしょっぱいのとは正反対な、くらいに。

グッ、と無意識にグラスを握る力が強くなる。
分かってる、彼は強制はしていない。
話を切り出すきっかけを与えてくれてるんだ。
…俺が素直じゃないことを、聡い彼は気づいているから。

だから、普段より弱い度数でしかもゆったり話せるように、ロングドリンクを頼んでるでしょう?
…普段は火が着きそうなくらいに度数が高いものとかを、頼むくせに。

ホント、…君を好きな女の子とかだったら不器用に優しすぎて、逆に傷つくからね?

良かった、これをしてくれてるのが赤い彼じゃなくて。
赤い彼にこんなことされたら、わざと酔った勢いで何かをしてしまいそうだから。
…そんなこと、するつもりはないけれど。

けれど、それをしてしまうかもと思ってしまうくらい、…今の俺には自制心が足りない。

「……最近さ、色々起きすぎてるんだ」

酔っぱらいの世迷い言だと思って聞いて?と冗談めかしに笑えば、黒い彼は目を瞬かせるも小さく笑って頷いた。

そう、俺が自ら身の上話をするだなんて、今夜昇る月があまりにも赤いから、なんてさ。

自分自身、閉ざしていた箱をほんの少しだけ開き、ポツリポツリと小さく溢した。


―騒がしかった店内も少し落ち着きを迎え、グラスの八分目に注がれた互いの液体が、六分目くらいになった頃。

相槌を軽く打ちながらほぼ口を閉ざして聞いていた彼は、少し薄まったオレンジベースの橙色の液体を嚥下し、コツリとグラスを置いた。
黒い彼に橙色の液体の組み合わせは、彼の飲む酒の名を思わせる。
実際、彼は肉食だし。

ティフィン・タイガーに濡れた唇を一舐めすれば、何故か頭をガシガシと撫でられた。

「今のオマエ、マジでその酒みてェだな」

クツクツと笑いながら指で指された先を見れば、しょっぱさとフルーティさを混ぜ合わせた、淡いレモン色の液体。

え、今君が飲んでるやつが君に似てるんじゃなくて?と首を傾げれば、短くなったタバコの吸殻を灰皿に押し付ける。

「知ってっか?オマエが飲んでるそれの由来。…イギリスのスラングで、甲板員が甲板の上で汗だらけつか、塩だらけになって働く様子から来ているらしいぜ?度数も低いしな」

…あぁ、それだけで言ってる意味が分かってしまった。
捉え方を間違えれば、いや実際に少しはバカにというか皮肉にしてるんだろうけど。

どれだけ犬のように一途に君だけを愛して、頑張っても。
この想いは一向に叶わなくて、けれど君が愛しくて仕方なくて。
君が愛しいから優しく出来ている反面、愛しいから君を奪えきれなくて、こんなにも、…弱い。

「…っ」

「だが、ンな犬みてェなオマエを少なくとも夕舞は嫌ってねェだろ。オマエが言う「あの子」の想ェはオマエの気持ち次第だし。…もう「嫌いなあの人」は、暫く会ってねェんだろ?」

ぼやける視界に、熱くなる目頭。
…堰を切ったかのように溢れる雫は、止まらない。

自分がわからない、人が怖い。

今までヘラヘラしていた自分がブレてしまったのだ。
あの子が俺に口づけてから、あの人との悪夢(過去)をまた見るようになってから。
演じてるつもりだった、大丈夫だって、…自分が崩れるわけがないって、ヘラヘラしてる自分は最初は演じていたものの、板に付きすぎて切って切り離せないホントの自分になっていたからだ。

けれど、…時折聞こえる足音と触れられる指先に、怯える自分がいる。
忘れられるわけがない過去、決して俺以外の人には永久に話すことのない、ドロドロとした禍々しい黒いもの。

結局、黒い彼にも掻い摘まんでしか話せてはいない。
単に嫌いな人との昔のことを思い出してーとか、何かチューされちゃってさービックリ!とか、相変わらず夕舞が好きすぎて辛い!とか。
そんないつも通りの突飛なテンションの話し方。
こうでもしないと、少しも自分を曝け出せない。
あぁ俺が、…本当に誰かを心から信じれる日は来るの、かな。
いや、夕舞も信じてるけどね!

愛されたいとは思わない。
夕舞を諦めたいとも、思わない。だって、夕舞を好きだと思う気持ちは本当で、温かくて、大好きだから。
だから、…恋人同士の愛し合いに触れる度に、自分も誰かに愛されたらなあなんて、淋しくなるのは単なる気まぐれだと思わせて。

顔だけで、上っ面だけで近付いてきた女の子とかは嫌いじゃないけど、本気にはなれないし本気になられたら困る。

身体だけを、というのは一種の交遊の仕方だから否定はしないけど、あまり興味ないし自分はしたいとは思わない。

ましてや、好きでもないくせして肉体的な意味だけでの、無理矢理なんて嫌いだ。
だから、…「あの人」は嫌いだ。
ここを知られたら、と思うとゾッとする。

あ の 人 が。

権力を振りかざして夕舞を傷つけたら?
自分を拾ってくれたマスターを傷つけたら?
夕舞の友人や、憎むべきはずなのに俺自身愛でたいと思ってしまう夕舞の恋人、そして今頭を撫でている黒い彼を傷つけたら?

…許せない、違う。
そんなことは死んでもさせない。
だからといって身を滅ぼす気はない、あくまで最終手段。
なんだかんだ言って、俺は今の自分が、ここが、大好きだからね。

あぁもう、恥ずかしいなあ。
明日、絶対バカにされる。
しょっぱい雫を溢した瞳で見つめるも、クスクスと笑えば「やっといつもみたいにバカみたく笑ったな」と優しく笑まれた。

「ま、ンな犬みてェなオマエ、俺も嫌いじゃねーけど?」

だからンな酒みてェに情けなく泣くな!と何故か怒られるも、照れ隠しからか赤く染まった耳に小さく笑ってしまう。

叶わない恋でもいい。
犬みたく君を一途に愛している時が、俺にとっての恋愛であたたかい一時だから。
また明日にでもなったら、いや今からでも赤い彼に会って、愛を囁きたいな!
上機嫌ながらも冗談混じりに告げれば、「オマエ以上の犬が知ったら噛みつくぞ?」と笑われた。

いいもん、そしたら二人とも纏めてからかって、愛でて、俺に付き合わせるから!

恋人がいる彼らに当てられて少し、愛されたいだなんてそういう恋愛してみたいだなんて、甘い感情を抱いたのは、赤い月と俺だけの秘密。

守りたい、今を。
この楽しい一時を。

窓から覗く赤い月に、しょっぱい雫の痕を覗かせるソルティ・ドッグは、愛しげに微笑んだ。


――
五十嵐のポジションを夕舞にしようか悩んだけど、敢えて五十嵐で。
夕舞相手には掻い摘まんでも言わないかな…セクハラで誤魔化しちゃいそう←

お酒、ソルティ・ドッグとティフィン・タイガーは実際のお酒名。
ソルティ・ドッグの由来も。
(筧に当て嵌めたのは勿論、自分なりの解釈。五十嵐が告げたのが本当)

久々に(途中までは!←)自分なりに丁寧に書いた気がする←

筧が泣くなんてもうないだろうな、早々(笑)
そして最近五十嵐が大人←

2014/03/03(Mon) 04:10

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