キャラなう。

キャラの気持ちを聞いてみる?
それともなんでも(!?)探偵団のレポートを見る?
◆春の木漏れ日、微睡む君、微かな動揺 

「ん…」

人気のなくなった放課後、穏やかな春風が、窓から吹き抜ける。
ふわり、と淡い花弁を乗せながら訪れたそれは、燃える赤い髪をくすぐった。
日射しはポカポカと温かく、窓の近くに茂っている木々の合間から覗く木漏れ日は、赤い髪の少年を眠りへと誘った。

そんな誘惑に負けたのか、赤い髪の少年は微かな身動ぎをしながら、再び小さな寝息を立てる。

大変美味しい状況なはずなのに、手を出そうとしない…否、出せないヘタレな自分に、銀色の頭が項垂れた。

人気のない放課後、無防備に眠る愛しい人。
確かに眠り始めたのはショートホームルームからだが、いくらなんでも無防備すぎる。
おそらくこの愛しい人は、親友である俺様何様会長様な蜂がいたら、彼に起こしてもらえて直ぐに帰っただろう。
しかし今日は、そんな蜂は高熱により、お休み。
生憎、寝ている彼を叩き起こす者などいなかった。

…これが恋人同士なら、手を出すことだって出来たし、しただろう。
しかし、恋人じゃなくたって好きだからすればいい…はずなのに、…どうも、いざこの状況になると手が出せなくなってしまう。

…おそらく、目の前で無防備に寝ている彼が恋人溺愛で、また彼に愛されている恋人も彼を溺愛しているから、…即ちラブラブだから、入る隙も気も起きなくなるのだ。
だからって諦める気はないし、彼らをからかうのは楽しいから、たまにからかったりしているわけなの、だが。

チラリと、安らかに眠っている彼を横目に見る。
伏せられた長い睫毛は時々震え、幸せな夢でも見ているのだろうか、口元を緩めている。
…きっと、あの恋人関連の甘い夢、だろうな。
ここまでラブラブだと、逆に精々する。
だからって、…諦める気はないけれど。
時たまに溢れる声がやたら艶かしく、雄の中の何かを掻き立てる。
手を伸ばしかけ、…固まってしまった伸ばした指先を、そろそろと戻した。

分かっている、結局どんな美味しい状況に至っても、自分は彼を抱くなんて、出来ない。
彼の涙を思う度、悲鳴を思う度、…心が痛んで、出来ない。
男が廃るってこのことかもな、と思うけれど、逆にそんなヘタレな自分は嫌いじゃない。

―それに、しても。

「無防備過ぎるって。…俺が君を大好きなんて、知ってるでしょー…?」

俺が何もしないと思うから、そんなに無防備になれるのか。
なら、一度ボロボロに傷つけてしまおうか?
泣いても喚いても、浅ましい欲を突き立てて…。

―なんて。

「出来ないって、わかってるからー…?」

結局は彼が可愛くて、出来ない。
質が悪いよ、と小さく息を吐くも、その無防備さも可愛いだなんて思う自分は、末期だ。

叶わないと知りながら、優美な蝶に魅せられる、堕ちた毒蜘蛛。
手を伸ばせば届く距離なのに、触れられないのは、身体だけではなく心も魅せられた、から。

「…ま…君が幸せなら、なんだっていいんだけど、ね」

名前を呼んだら、赤く柔らかい唇を塞ぎたくなりそうだから。
…わざとらしく、違う名で、君を喚ぶ。
こうでもしないと、触れられないなんて、なんて愚かだろう。

ポフ、とサラサラの赤い髪を撫でれば、小さく息を漏らしながら、微かにみじろぐ。

コツ、と靴音が微かに耳に飛び込み、視界の端で捉えた影に、冷たく投げ掛けた。

「―趣味、悪いよ?」

目を眇めながら、撫でた手を止め、影に顔を向ければ、一見可愛らしい笑顔ながら冷たい目で笑われた。

―あぁ、嫌いな、目だ。

「なんのことですかねー…?」

そんなに殺気を出して、何をおっしゃる。
にっこりと笑うもわざとらしい敬語を使い、冷たい目をしている、一つ下の甘い顔をした生徒会の後輩に、ひっそりとため息を吐いた。
大方微睡んでいる彼が好きで、そんな彼に触れている自分が、憎くて堪らないのだろう。

流石、俺が好きになった人。
他の人、まあ厄介なのにも惚れられるなんて。

水面下の戦いの中、ひっそりとそして唇に弧を描いた。

「この子が好きだからって、そんなに殺気出さないでよ?この子起きちゃうし、それに君の可愛い顔が台無しだよ?」

自分がにっこりと笑いながらも牽制をすれば、大体の人間がその場から直ぐに血相を変えて去る。
正直、自分はこの後輩が苦手だ。
それに、彼との甘い一時を邪魔されては困る。
それなのに。

「僕が好きなのが、…貴方と、言ったら?」

……っ、は?

珍しく微かながらに動揺してしまい、目を瞬かせてしまう。
いつの間にか近づいてきていた指先が、自分の顎に、触れて。

視界いっぱいになった彼の顔に目を見開き、ふわりと春風が吹き抜ければ、優雅に身を翻して小さく、笑われる。

「さようなら、先輩」

彼の消え去った教室には、春の木漏れ日と、微睡む君、そして微かな動揺を抱く俺が、残された。


――
筧を嫌いになれない私がいます←

2013/10/26(Sat) 20:33

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