短編

□熊井くんと雅ちゃん2
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初めて熊井ちゃんとキスした場所。

あのときの神社に、足が勝手に向かっていた。

ムカつくけど。ムカつくけど、あのときの幸せな記憶を目で思い出したかった。

息を切らしながらひとりで腰をおろす。

深呼吸をして冷静になると熊井ちゃんと嗣永先輩のあの光景がフラッシュバックされる。

視界がジワッと滲んだ。


「…熊井ちゃんのばか」


消えるような声で呟いたときだった。


「みや!!!」


前方から猛ダッシュの熊井ちゃん。
練習直後よりもすごい汗。

「…」

「み、みや…!なんで先に…かえっ……はあ、はあ」

余程全力で走ったのか、息が途切れ途切れ。
あたしの足元に片膝ついて見上げてくる。

なんなの、もう。


「…別に」

「嘘だ」

「熊井ちゃんに言ったって無駄だし」

「言ってくんなきゃわかんないじゃん」


ちょっとキツい言い方にむっとした。思わず溢れるひとこと。


「…“もも”と仲良く練習続ければよかったじゃん」

「え?もも?もう練習終わったし…」

「だったら戻っていちゃいちゃしてれば?」

「??待ってみや。よくわかんないよ…」


どこまで鈍感なんだか。さすがに腹が立つレベルだ。

こいつに遠まわしは通用しない。


「…毎日女の子引き連れたりさ、嗣永先輩といちゃついたりさ。あたしが見ててなにも思ってないと思う?」

「…?そんなことしたことないからわかんない……」

「…じゃあ周りの女の子はなんなの!?ああいうのを引き連れてるっていうの!それに、嗣永先輩にだって言い寄られてたくせに!」

「みや?」


少し声を荒らげただけで酸素が足りずに呼吸が荒くなる。
今までで溜めていた塊を吐き出したせいでもあった。


熊井ちゃんが立ち上がったと思ったら、あたしの隣に腰を下ろした。
肩が当たるか当たらないかくらいの距離。


「みや、俺の勘違いかもしれないけど……」

「…なに」

「……………ヤキモチ?」

「…今さら気付くとか鈍感」

「……どうしよう……」

「熊井ちゃん?」

「やばい。めっちゃ嬉しい。ごめん」

「は?」


にやにやをこらえきれてない熊井ちゃん。人の気も知らないで。


「俺さ、正直みやに相手にされてないのかと思ってた。急に告白なんてしちゃったし、年下だし、なによりみやがヤキモチ妬いてるとこなんか見たことなかったし…」

「…なにそれ」


校内の王子様が何言ってんだか。


「俺のせいでみやが嫌な思いしてたとか思いもしなかった。ごめんなさい」

そんなに素直に謝られたら許す他ない。

「…これからは女の子と話すの程々にしてね」

「うん。気をつける」

「はぁ……しょーがないなぁ」

「みや、ごめん」

「もういいって」

「いや……汗くさくてごめん」


そう言った瞬間、熊井ちゃんに抱きしめられた。

汗のにおいとシャンプーのにおいが混じってて、嫌ではなかった。

むしろ落ち着く。

背中に腕を回して熊井ちゃんの鎖骨付近にすりすりとおでこを押し付ける。


「…あたし以外の女の子に好きなんて言わないで」

「ごめん。もう絶対言わない」

「うん…」

「みや、好きだよ」

「…………あたしも」

「へへ。ヤキモチ妬いてくれてありがと」

「いや、そこ感謝するとこじゃないから…」







end.
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