短編
□まあ、いいけど。
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「まあ、いいけど」
それが佐紀ちゃんの決まり文句。
もも限定だけどね。
─────
付き合ってしばらく経つと、相手がどんな感情のときにどんなセリフを言うのかとかわかってくる。
佐紀ちゃんの場合は…
「ねぇー、佐紀ちゃん!」
「な、なに?」
二人きりのももの部屋でいきなり大声を出す。
ちなみに佐紀ちゃんはももの部屋のことを危険地帯って呼ぶ。
なんか、ここに入ったらももに捕らわれた気がするんだとか…
自分で言うのもアレだけどSっ気のあるももはそんなことを言われると余計にからかいたくなる。
「もっとくっつきたいなぁー」
「え、やだっ」
「なんでぇ?」
「…なんかいやな予感しかしないから」
恋人に向かってその言い方は…さすがに傷つくなぁ。
「でも、佐紀ちゃんはこの"危険地帯"に入った瞬間から覚悟できてるはずじゃん?」
わざと危険地帯って言葉を出すと佐紀ちゃんは余計に意識したのか、少し顔を赤らめる。
「でも…」
なんかゴニョゴニョ言ってる佐紀ちゃんにお構い無しにぐいっと肩を抱き寄せる。
ちなみに今いる場所はベッドの上。
適度に散らかってるももの部屋は、一番ベッドの上が片付いてるからだ。
二人の距離は、ほぼゼロ。
「ちょっと…ももっ」
さっきから紅潮した頬が色っぽい、なんて言ったら絶対振り払われるから、慎重に。
「佐紀ちゃん?」
「な、にっ…?」
佐紀ちゃんの弱点の耳元で囁いたら、はやくもとろけそうな声色。
「キス、したいなぁ」
触れるか触れないかくらいの距離だから、まともに耳に吐息がかかる。
「…まあ、いいけどっ…」
したいけど、恥ずかしい。
そんなときのお決まりのセリフ。
"まあ、いいけど"
ずるい、なんて思うこともある。
だけどそのときの佐紀ちゃんったら可愛くて、そのセリフを聴きたいももがいる。
優しくキスをする。もちろん、ももから。
「…佐紀ちゃんからしてよ」
低い声で言うと、佐紀ちゃんは身震いしたように見えた。
しばらくして、ももの服の裾をきゅっと掴んで佐紀ちゃんが近づいてきた。
「っん…」
それは、普段の佐紀ちゃんからはあまり想像できない濃厚なものだった。
大胆な佐紀ちゃんにももはもちろんテンションが上がり、思わず押し倒してしまった。
「…あっ」
その瞬間、佐紀ちゃんから驚きの声。
「佐紀ちゃん…しても、いい?」
「…まあ…いいけど……」
目を反らす佐紀ちゃん。
「佐紀ちゃん…かわいっ…」
「…んっ…、もも…」
今は素直じゃない佐紀ちゃんでも、優しく愛してあげるとだんだん素直になる。
ももは経験上知ってる。
はやく素直な佐紀ちゃんもみたい。
その一心で、佐紀ちゃんに優しく触れた。
end.