短編

□電話越し
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「佐紀ちゃん元気ないねぇ」

「そんなことないよ。いつものことだし…」

「またまたぁ。ももがいなくて寂しいんでしょ?」

「…ばーか」


電話越しのももの声は普段通りで、なんだかもやもや。

ローカル番組の収録するだけなのにホテルに泊まらなきゃならないらしい。

会いたい気持ちが声のトーンに表れてる自分とは違って、ももは楽しそうに話してる。


「佐紀ちゃん、ももだって会いたいよ」

「…ん」

「生で佐紀ちゃんの可愛い声聞きたい」

「……」


もものストレートに言いたいこと言うとこが好きだけど、その分恥ずかしくなる。

なにも言えなくて、俯いた。


「あー…佐紀ちゃん照れてる」


見てもいないのに見透かされてる。

さらに顔が真っ赤になった。


「可愛い。佐紀ちゃん好き」


甘い声で囁かれると、自分の心臓の音が速くなる。


「…もも、会いたい」

「ふぅー………」


深いため息が聞こえてきたと思ったら、電話の向こうでボフボフと音がする。


「もも?」

「だめだ。佐紀ちゃん、ももやっぱだめだ」

「どうしたの?」

「今すぐそっち行きたい」

「無理じゃん」

「分かってるよぉ…でもね、はやくぎゅーってしたい」


胸が高鳴る一方で、会えない現実を肌で感じる。

自分の腕をギュッと抱いてみても、ももみたいな暖かさはなかった。

涙がこぼれそうになって、ぐっとこらえた。


「佐紀ちゃん泣かないで。お願いだから…」

「…ごめんね」


そんなことを言われたら余計に涙腺が緩む。


「もー、お仕事終わったら会いにいくからさぁ」

「もも、はやく会いたいよぉ」


震えた声で言葉を絞り出す。


「佐紀ちゃん?いつも言ってるけど、ももが近くにいないときに泣いちゃだめ」

「…うん、我慢する」

「いい子だね」


ももが近くにいないっていう事実だけで、いつもこんな風に泣いちゃって。

でもその度にももが優しくて。

やっぱりももが好きだと実感する。


「もも、まだ眠くない?」

「ん。まだ話してたい」

「あたしも」

「ふふ。佐紀ちゃん素直」



電話越しのももが嬉しそうに笑うから、つられて笑みがこぼれた。


今日はももともうちょっと夜ふかししたい気分だなぁ。







end?

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