短編
□戦国自衛隊〜甲斐〜
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「あの、これ落としましたよ?」
「あ?……ああ、ありがとう」
「ふふっいいえ」
ふらっと意味もなく図書館に行ったときのこと。
ひとりの女の子が俺に話しかけてきた。
見ると、その手にはポケットに入ってるはずの俺の車のキー。
気性が荒いのと厳つい見た目のせいで他人から話しかけられることがあまりなかったから少し驚いた。
今思えば、あいつの笑顔に一目惚れだったのかもしれない。
あのとき俺に向けられた笑顔がどうしても気になって、忘れられなくて予定のない日に図書館に行くと、あいつはいた。
「あ、この前の…」
本を読んでいたあいつは、すぐに俺の視線に気付いて声をかけてきた。
そこから俺たちは、お互いが暇なときに図書館に来てはお互いのことを話すようになる。
「…もも、好きだ」
「嬉しい」
念願かなって、しばらくしてあいつ―ももと付き合えることになった。
今まで付き合った派手な女たちとは違って、ももは俺を優しく包んでくれる気がした。
「……もも、俺…」
「うん、分かってるよ」
俺が、自衛隊に一生を捧げる覚悟が持てず、大事な試験に落ちたときも慰めてくれた。
と言っても、ももがいるから死んじゃいけないって思ったから覚悟できなかっただけなんだけど。
ももには俺が必要で、俺にはももが必要だって感じた。
離れたくなくて、俺だけのものにしたくて。
この仕事から帰ったらプロポーズしようって思ってた。
幸せな家庭を持って、子供も産まれて……。
…………それなのに。
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「400年も離れてるって…遠すぎだろ……」
敵に切られた傷からドクドクと血が吹き出す。
うすれゆく意識の中でも、もものことだけははっきりと思い出せる。
「ちくしょう…もも………もも……」
…ごめん、もも。
今頃寂しくて泣いてるかな?
そばにいてあげられなくてごめん。
抱きしめてあげられなくてごめん。
もも、会いたい。
もも…、もも…
「…結婚しよう、もも…………」
この世界に、ももがいるはずなんかなくて。
でも、口に出さなきゃいけない気がした。
当然返事はない。
死にかけのプロポーズが、虚しく響くだけだった。
end.