短編

□愛には愛でしょ
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なんでこんな関係になってしまったのか。

いつからこんなにも好きになってしまったのか。

いけないことだって分かってる。

分かってるのに、やめられない。





「ねぇ、みーやん」

「……ん?」

「そろそろ帰らなきゃ終電なくなるよ?」


またそのセリフかと思うと頭が痛くなった。

つい、ため息をもらしてしまう。


「帰らないの?」

「うるさい」

「だって…終電なくなったらどうやって帰るの?」

「うるさいってば」

「…ごめん」


イライラする。

こんなに控えめに謝るももにも、自分にも。

またため息。


そもそもみやはどこにいるかというと、ももの家だった。

週末の夜、毎週ではないけどできる限りももの家に来ている。

ももとは恋人未満ではあるものの、あるとき突然そういう関係になってしまった以上抜け出せないでいた。

初恋なんて綺麗なものじゃない。

みやが今してるのは、最低なこと。

ももの優しさに漬け込んで、甘えてるだけ。


みやがなかなか帰らないでいるとももは決まって「終電なくなるよ?」を口にする。

その度に、ももとの関係の現実を突きつけられる。


みやは、ももが好き。

ももは?なんて考えるのも馬鹿らしい。

考えるより先に、ももが欲しい。


「…もも」

「みーやん?帰るの?」

「…なに嬉しそうな顔してんの」

「…そんなんじゃない」


薄暗い部屋で、少し晴れやかになるももの表情が見えた。

チッ、と軽く舌打ちをして、強引にももを押し倒す。


「み、みや…!」

「いいじゃん。さっきまで散々…」

「さすがにダメ!明日お仕事あるんだよ?」


みやの肩を押し返しながら抵抗するもも。


「ね?みや、お願い…」

「なんでそんな弱々しくお願いするの?嫌ならもっと抵抗しなよ」

「な、なんでそんな意地悪言うの…」


今にも泣きそうなももを上から見下ろして、背中の辺りがゾクゾクした。

今、ももの頭の中にはみやしかいない。


「…遅刻したりしたらまた佐紀ちゃんに怒られるよ?」


前言撤回。

ももの頭の中にはみや以外にまだ佐紀がいた。

他の人の名前が出てついカッとなって、乱暴な口調でももを責める。


「…さっきまであれだけみやのこと求めてたくせに。ももから積極的に求めてたくせに」

「もうやめてよぉ、みや……」

「うるさい。ももが悪い。もものせいでみやはこんなになっちゃったの。責任とってよ」

「みや、お願い……」

「もうそろそろ黙って」


ムカつく、ムカつく、ムカつく。

なんでこんなに好きなんだ。

なんでももをこんなに苦しめてるんだ。

むしゃくしゃする気持ちをぶつけるように、強引にキスを落とす。

しばらく続けると、ももは諦めたように抵抗をやめた。


「…みーやんの分からず屋…」


唇を離して最初の言葉がそれだった。


「ごめん、みや今もものこと気遣う余裕ない」

「…いつもじゃん」

「…じゃあいいよね」


もものあきれ顔が、再開の合図。
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