短編

□雨
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「あ、雨だ」

レッスン終わりに建物を出るときに佐紀ちゃんがぽつりと言った。

掌を空に向けて体の前に差し出すと、確かに雫が落ちてきた。


「もも傘持ってなーい」

「しかたないなぁ」


佐紀ちゃんは呆れたように言いながら折りたたみ傘をカバンから出してパサッと開いた。


「昨日『明日の天気雨らしいよ』って話してたばっかじゃん」

「そうだっけ?」


佐紀ちゃんの肩にピッタリくっついて当然のように傘にお邪魔させてもらった。

不満そうな顔を見せながらも佐紀ちゃんはももが濡れないように傘を傾けてくれる。

そして、雨の街へ足を踏み出す。


「ふふっ」


しばらく歩いて佐紀ちゃんが笑った。


「え?なに?」

「んーん、なんでもない」

「なにそれぇ!言ってよぉ」


ちょっと甘えた声を出してみたらまた呆れた顔されちゃった。


「わざとだったりして…って思って」

「え?」

「ももが傘忘れたの、わざとでしょ」


図星をつかれて一気に顔に熱を帯びる。

ももが佐紀ちゃんとの会話を忘れるわけがない。

佐紀ちゃんとの相合傘を期待してわざと傘を忘れてきた。


「そんなわけないでしょー、自分から濡れるようなこと…」

「あたしと相合傘したかったくせに」


なんで今日の佐紀ちゃんはこんなに鋭いのか。

ももが分かり易いだけ?

なんか一歩リードされてるみたいでやだなぁ。


ちらっと佐紀ちゃんの顔を盗み見たら真っ赤なお顔。


「あー!佐紀ちゃん自分で言って照れてる!!」

「うるさいよ」

「許してにゃん♪」

「あー、はいはい」

「んふっ、えへへへへ」


傘を持ってる佐紀ちゃんの可愛い手を握り締める。

佐紀ちゃんは少し驚いたけど抵抗はしなかった。


「身長差なくて楽だねぇ」

「そうだね」

「こんなこともできるもんね」


半歩先回りして佐紀ちゃんの前に立ち、素早く顔を近づける。

そして佐紀ちゃんがなにか言う前に一瞬だけ唇を重ねた。


「…誰かに見られるでしょ、バカ」

「えへ、ごめんね、帰ろっか」

「……もう1回だけ」


予想外の佐紀ちゃんからの甘いキス。


「珍しいね、佐紀ちゃんどしたの」

「さあ、雨だからじゃない?」

「てきとーだなぁ」


ふふって笑いあって再び歩き出す。

佐紀ちゃんからのキスが、ほんとに雨のせいなら毎日雨でもいいや。



ー明日も雨が降りますように。




end.

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