短編

□余計なこと
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「な、なんてことを…」


ひどく驚いた顔で言ったのは夏焼雅。

なぜ雅が冬のハロコン初日本番前の楽屋でそんなことになったのかと言うと、原因は意外にも後輩たちにあった。


−遡ること数分前

本番前となると騒がしくなる舞台裏。

Berryz工房の楽屋は今、髪型をセットするために鏡の前に座っている雅しかいなかった。

他の人はみな、ケータリング目当てであったり他グループのメンバーと写メを撮るために楽屋を出ていた。


コンコン


誰かが楽屋の扉をノックする音がした。


「はーい、どうぞ」

「「「失礼しまーす」」」


ノックの主は譜久村聖と鞘師里保、生田衣梨奈の3人だった。

聖がBerryz工房の楽屋にくるときは大抵桃子に用があるときだ。

今日は他のメンバーも来ているようだ。


「あ、ごめんねー今ももケータリング食べに行ってるっぽい」

「そうなんですかぁ、夏焼さんは行かないんですか?」

「んー、みやはいいや」

「そうですか…あ、少しお話相手になってもらえませんか?」

「私も夏焼さんとお話したーい!」

「衣梨奈もー!あんまりお話したことないし!」


後輩に怖がられることが多い雅はのその言葉が嬉しかった。


雅「いいよ、そこ座りな」

聖「はい!失礼します!あの、突然なんですけど…」

雅「ん、なになに?」

聖「嗣永さんとのことで…」

雅「もも?」

衣「やっぱ気になるよねぇ、ふたりのこと!」

里「うんうん!最近少し話題になってる」


雅は内心びっくりしすぎて頭が真っ白になった。

桃子との関係はまだBerryz工房にさえ広まってないと思い込んでいたからだ。


衣「そもそも夏焼さんってぇ、嗣永さんのどこを好きになったんですか?」

聖「えりぽん、嗣永さんの魅力分かってないなぁ、ね、夏焼さん!」

衣「ヲタには聞いてないしー」

雅「いやいや…あのね…」


そうは言ったものの、どう返せばいいかわからなかった。

素直に桃子の好きなところを言ったところでどうせ自分が恥ずかしくなることも目に見えていた。

それに、そもそも好きなところなんて考えたこともなかった。

ケータリングに行かなかったことをいまさら後悔する雅。


里「じゃあじゃあ、初キスってどこだったんですか?」


ーそして、今に至る。


雅「な、なんてことを…」

聖「りほりほ、ナイス!ファインプレー!!」


ふくちゃんうるさい。鞘師もガッツポーズしないの。

−初キスなんて、そんな単語がりほりほの口から出てくるなんてお姉さんびっくり。

自分なんかよりよっぽど大人びてる−

桃子との初キスを思い出すだけで顔から火が出そうだった。


衣「夏焼さん顔真っ赤…」

里「え!可愛いー!」

雅「もう、そんなんじゃないから!」


ガチャッ


最悪のタイミングだった。

こういうときにやつがやってくるとろくなことがない。

そう、話の中心人物、嗣永桃子がケータリングから帰ってきたのだ。


「あれぇ?珍しいねぇ、どしたのみんな」


当然のようにみやびの隣に座る桃子。


「…ん?みや少し顔赤くない?体調崩した?」


自分の手を雅の頬にあてながら言う桃子。

後輩3人はその自然な流れをただひたすら凝視していた。


「いや、大丈夫だから…」

「だめだよみや。体調悪いなら素直に言わなきゃ」

「大丈夫だってば。ももはいつも心配しすぎ」

「だってぇ…みやだからだもん」


いつもならここでいい雰囲気になるところだが、今日は状況が違った。

後輩を目の前にしてさすがの雅もいつものようにデレになることはできなかった。


里「今、夏焼さんに嗣永さんとの初キスについて聞いてたんですよ」


…余計なことを。

心底思う雅だった。


「ええー?みんなそんなの聞きにきたの?照れるなぁー」


明らかににやにやしている桃子を横目に、もう逃げられないと悟る雅。


「えっとねぇ、たしか楽屋だったよね?」

「お願いだからみやに振らないで」

「もう〜、照れ屋なんだから♪楽屋でね、ももがいきなりしたの!そしたらみや、真っ赤になっちゃってさぁ〜…」

「「「おお〜…!」」」

「好きだよ?って言ったら照れながら、みやも好きって。ね?ね?可愛いでしょ?可愛すぎるぅ!ももの次に」


無言で真っ赤になるしかない雅。

そんなことを知ってか知らずかさらに話し続ける桃子。


「でね〜、この前ももの家にみやが遊びにきたんだけどぉ、そのときのみやってば今までにないくらいデレっデレでね!可愛すぎてキスだけじゃおさまらなかっ「もも!!」」


桃子が言い終わる前に何を言おうとしているか察した雅が止めた。

さすがにそこまで話されちゃいろいろとまずい。


「あ、ごめんねみや。恥ずかしいもんね」

「あんたなに考えてんの?」

「ごめんってばぁ」

聖「あの、あの、貴重なお話ありがとうございました!」

衣「衣梨奈もうちょっと聞きたかったなぁ」

「またみやがいないときにじっくり話してあげるね」

「もも?」

「も、もちろん冗談だよぉ」


疑いの目で見つめる雅。


「さて、立ち位置とか確認できてんの?失敗は許されないよ〜」


桃子のその言葉で焦って帰り支度をする後輩たち。


「「「失礼しました〜」」」

「本番頑張ろうね〜」


静けさが戻るBerryz工房の楽屋。

そこには超不機嫌な雅とまだにやにやしている桃子が残された。


その後、このふたりがどうなったかはだれも知らない。



end.
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