氷のように
□訪れた悲劇… 悲しみに沈む現実
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鬱蒼とした林間を駆け抜け
「ったく、何か鬱蒼とした場所だな。しかもこの植物、どっかで見たことあるような気が…」
暗い林を駆け抜けながら、黒鵺は軽く舌打ちする。
木と言うには細すぎ、真っ直ぐ天に向かうように伸びるそれは、表面がつるりとした若葉色で、所々に葉がある。
(これは…竹‥か?)
蔵馬は訝しげに眉を寄せる。
竹は人間界の植物だ。
十五辺りだったか、炬昼や黒鵺と一度遊びに行った事がある。
それ以降一度も行っていないが、その植物だけ印象に残っていた。
人間達はそれらで楽器を造ったり、武器にしたりと
様々な活用法を用いて使っているらしい
だが、今注目すべきはそこじゃない
(何故人間界の植物が魔界に咲いている?)
魔界と人間界は違う
魔界が好しとしている事は、人間界では害にしかならないのだ
植物も例外ではない。
禍々しい風が吹く魔界で育った植物は、魔界の風に耐性が出来長持ちしやすいが、人間界の植
物が魔界の風に当たれば直ぐに枯死してしまう。
しかしこれは…この竹は
枯れる事なく魔界で立っている
(一体何故…)
考えれば考える程不審感は募り、蔵馬の中で渦巻く靄も色を濃くした。
「おい蔵馬!そろそろ宮殿が見えて来たぞ!今から気ぃ引き締めないと、お前マジで死ぬぞ!?」
はっと我に返れたのは黒鵺の叱責だった。
己の前を行く彼は前方を見据えたままだが、しかしその目に怒気が孕まれているのを蔵馬は理解していた。
それ程に、黒鵺と言う男は単純で判りやすい
「‥嗟、そうだったな。今回も頼むぞ相棒!」
「おぉ!‥って、いつもと立場逆転だな。お前に相棒とか言われると何か気色悪ぃ‥あ、やべ、鳥肌立ってきた」
「よし、お前は一度泥沼に頭を突っ込んで来い」
「いつもの性悪狐が戻って来た」
内心ほっとした黒鵺の台詞を鼻であしらい、蔵馬は更に走る速度を速め彼を追い抜いた。
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