氷のように

□押し寄せる不安 絶望の足音
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「蔵馬の奴遅いな‥もうすぐ時間だぞ」

少々苛立った黒鵺の呟きを、炬昼は聞き逃さなかった。

「盗みに行くの?」

首を傾げる炬昼に、黒鵺は晴れやかに笑う。

「嗟、今回は魔界の宮殿だ。」
帰る村すら失った彼
しかし、以後もその屈託ない性格は全く変わらない。

炬昼は、そんな黒鵺が大好きだった。

黒鵺の首にぶら下がっている物が光る。

青い石の、少し大きめのペンダント
そして赤い石のペンダント

そういえば‥

「黒鵺、そのペンダントって12歳位からかけてるよね?どうしたの?それ」

と、黒鵺の胸辺りにある石を指差しながら聞いてみた。

「…ああこれは…」

自分が着けているペンダントを握りしめ、一瞬だけ黒鵺の目が揺れる。

炬昼はそれに気づかない。

「……やっぱり教えねぇ。」

しかしいつもの様ににこやかに笑い、黒鵺はべっと舌を出した。

「うわ〜酷い!」

「あはは…炬昼、頼みがあるんだ。」

「ん?」

頬を膨らませている炬昼の首に、自分が着けていた青いペンダントをかける黒鵺。

蒼い耀きを灯すそれが、炬昼の胸元で小さく揺れた。

「それ、持っててくれないか?」

「え……でも…」

「良いから。」

その真剣な声に、炬昼は少々驚かされるもそれでもいつもの様に笑い、そのペンダントを受け取った。

「……わかった。」

「……あのさ…」

「ん?」

首を傾げ、炬昼はまっすぐ口ごもる黒鵺を見つめる。

その顔を見た黒鵺は、湯気がたつ程に赤くなり、ぎくしゃくした動きになる。

「…やっぱ…何でもねぇ…」

「えー何なのよもう!」

さっきから何も教えてくれないんだから!
と、拗ねた口調で抗議する炬昼に一笑し、黒鵺は立ち上がった。

「蔵馬探して来るわ。そのまま宮殿に行く。」

「うん…いってらっしゃい」

「…嗟」

黒鵺は炬昼、挨拶もそこそこに別れた。


「…ちゃんと帰って来てよ?」


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