氷のように

□正しき選択 踏み出す先は
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俯く炬昼の様子を、黒鵺ははらはらした面持ちで見ていた。

彼としては此処で彼女と別れを告げるのは忍びないだろう。

蔵馬は短い溜め息を吐いた。

蔵馬としても、霜霙と鵠絽を喪ってから、黒鵺や森羅以外で心を許せた妖怪の炬昼と離れるのは少々面白くない。

しかしこれは彼女が選ぶ事

自分達の思い通りにさせる権利など、端からないのだ。

「どうする?炬昼」

煉磨が追い討ちをかけるように問いかける。

炬昼はぴくりと肩を震わし、更に俯いた。

どうすれば良いのか判らないのだ。

確かに、家族には見放されていたのは解っていたが、決して邪険にされていたわけではない。

強いて言うのなら、優しさで突き放されていた。

あんたは少し抜けている所があるから、無理して賞金稼ぎの道に進まなくても良い
賞金稼ぎは遊びで出来るような事じゃないのだから

と。

父も母も、勿論兄も、皆自分に優しかった。

その優しさが嫌で、でもこの試練を受けさせてくれたのが嬉しくて…

(母さん達と離れたくない…)

まだ家族と共に居たいと願うのに

(でも…私は……)

蔵馬と黒鵺を尻目に見やる。


今までになかった存在

初めて"友達"と呼べるような存在が出来た。

(二人とも、離れたくない…!)


どちらも大切で大好きで、捨てることが出来ない。

「炬昼」

煉磨が妹の名を呼ぶ。

緩慢な動作で兄を見れば、彼は穏やかに笑っていた。

「…兄さん私‥!」

兄の穏やかな微笑を目の当たりにし、何かを決意した炬昼は涙を堪えながら必死に言葉を並べた。

必死な面持ちの実妹の頭に手を置き、煉磨はゆっくり撫でる。

「大丈夫。お前が選んだ答えなら、それが正解だ。」

実兄の優しい言葉が背を押してくれる。

温かいものが込み上げてくるのを感じながら、炬昼は決意した目で兄を真っ直ぐに見つめた。














「私、二人に着いて行きます」

その声色に迷いはない


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