氷のように

□波乱の旅 終焉の序章
1ページ/3ページ



魔界の時間の特徴は気温だ。
夜は全身の感覚がなくなるほど冷えるそれは、朝には少しばかり温かさが混じる。
軈てそれは高まり、昼には生温いものになる。
そしてまた、風は凍えるものになり夜の帳が降りたことを知らせるのだ。

「さみー」
朝が来ても寒い魔界。
それでも先に進まないと行けないので先程から動こうとしない黒鵺を、蔵馬は半ば強制的に立たせた。
「だからと言っていつまでも此処に座っていても良い理由にはならないぞ黒鵺。」
「わ、わーったから取り敢えず髪引っ張んの止めようぜ!?抜ける抜けるっ!禿げるっ!」

蔵馬は仕方ないと言った体で手を離す。
非難の目を向けながら睨む黒鵺を見ながら炬昼はころころと笑った。

そんな炬昼を見た黒鵺の顔が見る見る内に赤くなっていくのを見ていた蔵馬は然も可笑しげに口角を吊り上げた。


"炬昼"という少女は不思議な妖怪だ。




















「っくしゅっ!」

大分歩いてからだろうか。
まだ夜も明けきっていない頃に出発したためまだ気温は冷える。
当然冷え込む魔界の朝。
もう蔵馬達は馴れる頃だろうが、女である炬昼にはまだ少々きつい。
妖怪でも病に倒れる事だってある。
それは炬昼も例外ではない。

「炬昼、寒いならこれ着てろよ。」
「え、でもそれじゃあ黒鵺が…」

逡巡する炬昼に黒鵺は笑いかけた。

「俺はそろそろ馴れる頃だからさ。」

そう言って彼女の小さな身体を自分の少し大きい羽織で包み込んでやる。

「ありがとう…」
きゅっと黒鵺の大きな羽織を掴みながらほわりと微笑む。
それを見た黒鵺も自然と笑顔になった。

「……」
蔵馬は二人を見つめた後己の左手を見下ろした。
己の羽織に手をかけたまま停まっている左手。
炬昼がくしゃみをした時無意識に手が羽織に伸びていた。
「…何なんだ一体……」

こんな気持ち、俺は知らない―――


+
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ