氷のように

□新たな旅 悦楽の時
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「で、これからどうするよ」

炬昼の造った非常用出入り口から外へ脱出し、まるで何百年ぶりかに魔界の空気を吸ったような心境に浸っていたのを振り払うかのように黒鵺が本題に移した。

「ああそれなんだがな、"本物"を頂戴しに行かなきゃいけないんだ。」

「は?」

意外だった返答に思わず素っ頓狂な声を上げる黒鵺。

炬昼も軽く目を見張って蔵馬を凝視した。

「お前が背負ってる"宵"の壺は確かに本物なんだが…」

言いながら蔵馬は自分の背負っている壺に軽く目をやる。

「俺の背負ってる"陽"の壺はどうやら偽物らしい。外に出て判った。」

「えぇっマジかよっ!?」

「そういえば、数日前に此処の所有者が壺を持って何かしてたみたいだけど…」

炬昼が数日前の記憶を手繰るように口許に指を当てる。

「けど何でまた"陽"の壺だけ…」

黒鵺がぽつりと呟いたのに蔵馬は答えた。

「魔界で一番長いのは夜だからさ。」

夜が長いと言う事はそれだけ月が昇っている時間が長いと言う事。

それはつまり、"陽"の壺に太陽が納まっている時間がそれに比例して長いと言う事になる。

年中分厚く禍々しい雲に覆われてしまい、その全貌を曝す事はないが、しかしこの2つのエネルギーのお陰で魔界は保たれていることに変わりはない。

「それに魔界の太陽のエネルギーは甚大だ。浴びれば浴びるほど、妖力が爆発的に上がる。…月よりも稀少価値が高い分、独り占めにしたいと言う気持ちは分かるだろ?」

黒鵺と炬昼は頷いた。

「という事は、当然の事ながら所有者が"陽"の壺を持っているのね。」

「ああ、そこで炬昼の力が必要なんだ。所有者の所まで連れて行ってほしい。後はお前の使命を果たせば良い。」

「判ったわ!」

「よっしゃ!ほんじゃ行こうぜ!?」

話が纏まり、蔵馬と黒鵺は再び炬昼を先頭に歩き出した。


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