氷のように

□陽宵山の中 つらき試練
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「おばさんありがとうございました!」
「またいつでもおいで」
「はーい!」

途中寄った村で食料を分けてもらった。
二日分はどうしたかと言うと、食べられたと言うべきか食べさしたと言うべきか…
とにかく1日目でそれは尽きてしまった。
1日くらい飯を抜いても問題ないだろうと高を括っていた二人だったが、育ち盛りの胃袋は何処までも素直で、これは何か口にしないと陽宵山にたどり着く前に自分達が餌になってしまうという何とも見たくもない未来予想図が完成してしまい、陽宵山に向かいながらもその途中にある街を目指した。
どちらかと言えば大人しい妖怪達の集まりであるそこは活気に溢れながらも穏やかな雰囲気を漂わせており、二人の緊張の糸が少しだけ解れた。

声をかけてくれたのはその街に住むふくよかな三十路半ばの女だった。
女は独り身で子供も居ないらしく、蔵馬と黒鵺を快く家に招き入れてくれた。

これに辿り着くまでが、蔵馬のちょっとしたテクニックの見せどころだ。
生まれ持った耳や尻尾をふるふると横に振り、普段絶対に見せないあどけない子供の人懐っこい愛嬌ある笑顔で女に警戒される事なく招き入れてもらったのだ。
以外に演技が上手かった蔵馬に驚いたのは他でもない黒鵺だった。

「それじゃあ元気でね?」
「また来るよ!」
黒鵺と蔵馬は元気よく手を振り、その街を離れた。
「…さて行くか」
先ほどまでの愛嬌は何処へやら。
黒鵺の隣にはいつもの尊大な態度の仔狐が居た。
「お前二重人格なのか?もしそうならどっちが本当のお前なのか全力で問いたい。」
「は?馬鹿かお前、そんなわけないだろう?演技だ演技。まだこの年辺りはぎりぎり使えるからな。子供の特権は使えるうちに使わないとやっていけない。」
「………」

黒鵺は思った。
"こいつだけは敵に回してはいけない"
と。


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