氷のように

□さらば昔… 妖狐蔵馬誕生
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―――とにかく、もう少し休んどけ。
気持ちが落ち着いたらまた話を聞くとしよう。
あ、まだ名を名乗ってなかったな。
俺は『森羅』だ。―――


そう言って、ふたりの妖怪は小屋を出た。


























悪い妖怪には見えなかった。
だが、今の銀太にはそれを認められる程の余裕が無かった。
3日ほど眠り続けていたと聞かされた。
今まで自分が辿って来た道は、3日前に全てぶち壊されたのだ。

いや、生まれ落ちたあの日から……

脳裏に、烏と父の様に慕っていた妖怪の姿が浮かんだ。

そして赤の記憶と…
赤の記憶は、ずっと銀太の中で生き続けている。
でもそれは、ある烏と妖怪のおかげで癒されていた。
あのふたりは自分の全てで、どんな物よりも大切だった。
これまで霜霙や鵠絽としか接した事がなかった銀太。
親の居ない自分にとって、家族同然だった妖怪達。

ふたりは…もう……。

思考がそこまで辿り着いた途端、何かがぷつんと切れた。
視界がぼやけ、目頭が熱くなる。
鼻の奥がつんとなり、気付いた時には銀太は泣き崩れていた。















「なんなんだよあれ!たすけてもらっといてありがとうのひとこともないのかよ!おじきぃ!なんでとめたんだよ!?」
助けた子供の態度に良い印象を持たなかった甥は伯父にきゃんきゃんと吠えていた。
礼を述べるのが礼儀というものではないのか。
それを教えてくれたのは伯父貴なのに、何故止めたのか。
黒鵺には納得がいかなかった。
「落ち着け黒鵺。余程の事があったんだろうよ。今は少しそっとしといてやろう。」
「でもさぁ!……!?」
更に言い募ろうとしたとき、自分達の小屋から泣き叫ぶ声が聞こえて来た。


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