氷のように

□それは暗雲の様に
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雷鳴が轟く魔界。
それは朝・昼・晩関係なく鳴り響く。

銀太が寝付いたのを見計らい、霜霙は銀太をテントの中で寝かせてそこを離れた。

「―――――鵠絽」

毒々しい空を見上げて烏の名を呼ぶ。

すると、今まで何処に行っていたのか、漆黒の烏が鳴きながら主の手の甲に舞い降りた。

『モウ行クノ?』
「ああ。銀太の事頼んだぞ?」
鵠絽はもう一度カァと鳴くとテントの方へ飛んで行くのを見送り、霜霙はふぅと一息吐いた。

盗賊。

それが霜霙の本業だ。
魔界では力が全て。
力なくして生き残ることは決して有り得ない。
魔界とはそういう所なのだ。
冷たく、暗く、醜い所。
そんな所に生まれ落ち、生きていかなければならないのが妖怪の宿命。
自分もあの子も、それに従って生きていくしかないのだ。
あの子も、いつかは一人で生きていくことになる。
その時が来るまでに、教えなければならない事がたくさんあるが、あまり教えたくないと言うのも本音で…
此処はあの子には辛すぎる世界だ。
妖怪として生きるには、あの子供にはそれなりの負担がかかるだろう。
自分や鵠絽以外の妖怪と接触するのも、それ以外の存在と接触するのも
だからせめて今だけでも、何者にも干渉を受けない穏やかな時間を贈ってほしいと思っている。
そしてそれが崩れた時、本格的に銀太に生きる為の術を叩き込むつもりだ。
今みたいに薬草や毒草、その他の植物の知識だけでなく、剣や体術などのさまざまな護身術を。

本当に、本当にその時が来るまでは…
何も知らずに笑っていれば良い。
その肉体に流れる血に抗う事が出来ないのなら、その時が来るまで何も知らなければ良い。
今は、本当に今だけは自分の側に置いて『償い』をさせてほしい。



















しかし、その切なる願いが
脆く崩れ去る時が


刻一刻と迫っていた


まるで、魔界の毒々しい空を更に醜くさせる暗雲が押し寄せてくる様に―――――
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