氷のように

□極悪非道の妖怪 妖狐蔵馬
2ページ/3ページ



寒いなぁ…。


朦朧とする意識の中、黒鵺は他人事のように思った。

敵は宝を持っている蔵馬だけを追っているらしく、自分にはまだ
幾つもの竹が貫通している。

身体中の血液が外へ出され、地面に吸い込まれて行っては赤い水溜まりが出来る。


まだ死にたくなかったな…


後悔はしていない
だが残念に思った


まだ大事な約束を果たせていない

まだいろんなものを見ていきたい

蔵馬と盗賊を続けていたいし、炬昼と…

(炬昼…)

黒鵺の脳裏に一人の少女の笑顔が浮かんだ

炬昼に渡したペンダント…

あれは、自分の大切な人がくれた物だ

大好きな炬昼が笑顔ででいられるように、寂しくならないように

自分はいつでもそこに居るという証を彼女に…

嗚呼でも
蔵馬が居るから心配ないか?

黒鵺は淡い笑みを浮かべた。

その目は、もう光を宿していない…



ごめんな二人共……


俺、先逝くわ………



黒鵺の妖気が完全に消えた――――――

























「黒鵺…」

気配を断って竹林に隠れていた蔵馬は、追手が居なくなると宮殿の方角に戻った。

鬱蒼とする竹薮

邪魔なそれらの隙間から見えた影を見て立ち止まり、蔵馬はこの上ないほど目を見開いた。

幾多もの竹
それが全て貫通し、手をたらりと下ろし項垂れ、人形の様に動かない影。

「…黒…鵺…?」

ゆっくり、またゆっくりと黒鵺に近づく。

蔵馬からしたら、走っているつもりなのかもしれない

しかし実際は一歩一歩確かめるように踏みしめるだけ…

漸く黒鵺にたどり着いき、その姿を凝視する

幼少の頃から一緒に居た妖怪

元気過ぎるほど元気で、どこまでも突っ走って戻って来ない

単細胞で誰よりも優しい妖怪

血がすっかり凝固した竹を一本、また一本と丁寧に抜いていく

せめて、痛みを感じない様に…

気が狂いそうだ…

しかし今目の前に居る友を助けてやりたい

その思いだけが身体を動かした


+
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ