氷のように

□さらば昔… 妖狐蔵馬誕生
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それにびっくりした黒鵺は飛び上がったと同時に唖然とした。
今まで抑えていた物を解放したかの様な悲痛な声だ。
生まれて3年ちょっとという短い人生の中で、自分はこんなにも悲痛な泣き声を聞いたことがない。
誰かの手が肩に触れてきた。
目線を上にやると、伯父が微笑んでいた。
「今は無理かもしれんがな、お前はあいつをちゃんと理解してやれ。」

そして、あいつを支えてやれ。

伯父の言葉に頷き、黒鵺は小屋の中に居るであろう銀太を心配するのであった。


泣き声がぴたりと止んだのを確認し、黒鵺はそっと小屋の中に入った。
子供が黒鵺を見る。
疲れきった顔。
目を真っ赤に腫らし、頬には涙の跡が付いている。
その姿はとても痛々しいもので…
その姿以上に、心は傷ついているのかと思うと哀れで仕方がなかった。
「…あ、あのさ……」
何を話したら良いか判らない黒鵺は、頬をぽりぽりと掻きながら銀太に近づく。
気持ちが落ち着いたのか、銀太は威嚇することもせず、ずっと黒鵺を見ている。
「……だいじょぶか?」
一先ずそう訪ねてみる。
「うん…。」
消え入りそうな声で銀太は頷いた。
「……………。」
どうしよう…これ以外かける言葉が考え付かない。
「〜〜〜…!そうだ!はらへってるだろ!?もってきてやる!」
たたたっと小屋を出た黒鵺は器を持って直ぐに戻って来た。
「ほら。」
少し唖然としていた銀太は、おずおずと器を受け取り中身を見た。
中はスープらしく、湯気をたてている。
ゆっくりとそれを喉に流し込み、息をついた。
温かい。
全身に染み渡る様で更に落ち着いた。
それと同時にふとこの間迄の事を思い出す。

霜霙も料理が得意で、自分や鵠絽は手伝いながらも摘まみ食いしようとしては霜霙に窘められて…

楽しかった日々が蘇る。

ぽた…ぽた……

再び銀色の雫が溢れ、スープの中に吸い込まれて行った。
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