氷のように

□喪失の後 新たな出逢い
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最初に見たのは赤の水と、いろんな塊だった。
その後は真っ暗で、次に見えたのは黄ばんだビニール。
それからは幸せを感じる物ばかりを見たり触ったり、本当に穏やかだった。

そしてあの夜、また赤を見た。
温かかった大好きな人の身体。
一番の親友だった烏。

ふたつを同時に失った自分は、その後どうなったのだろうか。
ずっと暗くて冷たくて、その後自分は―――――。


夢現を彷徨っていた銀太は、ゆっくり目を開けた。
見慣れない天井が見える。
明らかに、自分達が使っていた、ビニールのテントなんかじゃない。
「………」
ゆっくりと首を巡らすと、黒い塊が見えた。
まだぼやけて実体はちゃんと見えないが、それはあの烏を連想させた。
「…こく…ろ……?」
掠れた声が途切れ途切れに烏の名を紡ぐ。
その声に塊は反応した。
しかし振り向いたそれは、自分とあまり変わりのない年の少年だった。

蔵馬は戸惑った。
似ても似つかないのに間違えてしまった。

「………」
少年はきょとんと銀太を凝視している。
「あ、あの…」
「おじき―――!ぎんがおきた―――!」

銀太の言葉を遮って外に飛び出した少年は、伯父に報告をしに行った。
しかも何故か勝手に名前まで付けられている。
銀太は上体を起こし、辺りを見回した。
全体が藁で創られた小さな小屋の様だ。
藁独特の匂いがその場を満たす。
自分に布団代わりでかけられていたのは薄汚れたマントだった。
それを触りながら、銀太は出入口の方を見た。
さっきの少年が誰かを連れて戻ってくる。
「お、気分はどうだ?」
連れてこられた妖怪は、晴れやかに笑い、銀太に聞いた。
「………!くるな!!」
銀太は硬直したかと思いきや、突然飛び起きてふたりに威嚇する。
その態度に、黒鵺は少し驚いた後ムッとした。
「おまえなぁ!っ…」
物申そうとした黒鵺の肩を、伯父は掴んだ。
甥は、伯父を見上げた。
伯父の目は、『何も言うな』と言っているようだった。
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