13番目の推命

□【第4話】 ダーズンローズ
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優しい記憶。

僕は覚えていないけれど、それは確かに僕の中にある。

僕を愛してくれた人と、その言葉…。



【第4話】 ダーズンローズ



「つ…どうして…!」

「クフフ…まだ口が利けるのですか?」

「あっ…!」


前髪を掴んで持ち上げられる。

冷徹な表情を浮かべるオッドアイの少年。

彼は確かに骸だった。

いつも優しく接してくれる幼馴染の父親。

そのはずなのに…。


「流石は並盛中のNo.1ですね。でも…いつまでもちますかね?」

「ぐぁあああっ…!!」

「さぁ、次でどうなりますかね…『風紀委員長』さん?」


動かない体。

「フウキイインチョウ」とは何なのか。

訳の分からない言葉と、頭上の桜。

そして

自分を「雲雀恭弥」と呼ぶ骸…。

『彼』は明らかに恭吾を恭吾として認識していなかった。

痛めつけ、弄ぶ対象…。

嘲笑を浮かべてそんな目で恭吾を見る若き骸は、「狂気」と呼ぶにふさわしい姿だった。


「お立ちなさい。」

「…!」

「頑丈な身体ですね…もう少し痛めつけたほうが良いでしょう。」

「ぁあああああああ…!!!」


歪む視界。

天井と床の上下が分からなくなる。

激しい痛み。


お父さん

お父さん、助けて。

その声はもう出なかった。


「…骸様、良いんですか?」


千種はやや顔をしかめた。


「あれ、ただの幻覚じゃないでしょう?」


骸はただ黙って口の端を上げただけだった。

恭吾は今、骸の幻覚の中にいる。

『桜クラ病』という奇病に自分自身の身体が罹患している事など知らず、ただ混乱の中にいるのだ。

骸は敢えて恭吾をその『混乱』の中に追い込んだ。

千種と犬はその意図が分からず、唖然としてその光景を見ている事しかできなかった。


「骸さん…まさかあいつ、殺すんれすか…?」

「それは、あの子次第ですよ。」

「殺したら、今の仕事がめんどくなる…。」

「分かってますよ。」

「じゃあ、ろうして…?やるんなら、ガキじゃなくてオヤジの方やったらいいびょん!」

「あの子にだから、やっているのです。」


骸は犬を振り返った。


「リボーンから、10年前の沢田綱吉に雲雀恭弥が与えた『試練』の事を聞いたでしょう?」

「んあ?何かあの…ケーショーがどうのこうのってやつかびょん?」

「ええ。」

「…骸様、じゃあ…。」

「僕が何をするかは、雲雀恭弥も知っていてあの子をここへ寄越しています。」


昨日、恭吾は新たな『力』を手に入れた。

しかし、それはまだ覚醒していない。

家宣との一戦を見ていた骸は、その『力』を解放させるにはある一定の『試練』を与えねばならないであろう事を感じた。

肉親である雲雀との修行も恭吾にとっては十分に厳しい。

しかしその程度ではだめなのだ。


「可哀そうですが、今の彼には10年前の僕くらいはやっつけてもらわないと困るんです。」

「んなっ…!無茶だびょん!!」

「彼の父親は、そうは思ってはいませんよ。」


自分の『敵』である骸に息子を託した雲雀。

その目には相当の覚悟が宿っていた。

生きるか死ぬかの戦いに、敢えて大切な我が子を突き落すという確かな覚悟だった。



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