13番目の推命
□【第3話】 家内喜多留
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「じゃああなた、本当にあの獄寺の子の面倒ちゃんと見たのね。」
「多分もうないと思うけどね。こっぴどく泣かして帰したから。」
「もー…。」
【第3話】 家内喜多留
雲雀は夕食後、獄寺の息子・秋人を鍛えた話を楽しそうにしていた。
獄寺の息子は恭吾と同じく『11代目』を継いだ、未来の嵐の守護者なのだという。
強くなる可能性のある子ども。
雲雀は本能的にそういう者を好む男らしい。
人と群れるのは嫌いなのに、見ていると構わずにいられなくなるのだ。
しかし、そうはいっても相手はまだ8歳の子どもである。
今日の特訓は秋人にとって、けっこうハードなものだったようだ。
「人の家の子なんだし、あんまり厳しくしたらかわいそうよ?」
「あれでもかなり手加減したほうだよ。あの子、ちょっとトンファーで小突いただけですぐ泣くんだもん。」
「あなたの『ちょっと』は子どもにとっては十分すぎるの。」
父親に似て負けん気が強く、ワガママでいう事を聞かない性格の秋人に、雲雀は修行の間中だいぶきつい「お灸」をすえたらしい。
おかげで雲雀はすっかり「こわいおじさん」認定。
家に帰ってから秋人は「もうオレ、ヒバリのおじさんとこ行かない!」とすねていたとハルが電話で話していた。
一方、恭吾は獄寺とビアンキに相手をしてもらったといい、Tシャツに大きな「焦げ穴」を作って帰って来た。
『嵐サソリ』の炎で焦げたのだという。
(あの子、素晴らしい才能を持ってるわ。父親だけじゃなくて、もっといろんな大人に修行をつけてもらうべきよ。)
(そうかしら…。)
(リボーンも明日イタリアから帰ってくるの。あの人にも協力してくれるように話しておくわ。)
ビアンキも獄寺も恭吾の才能に「お墨付き」をくれた。
ルイの前では、恭吾はそんな様子を見せない。
10年後の自分の母親よりもずっと若いルイにも遠慮せずに甘えてくる、くったくのない子供。
正直、トンファーを持たせたりリングを使わせるのは危ないのではないかと思うほど幼い。
だが、彼は絶望に包まれた未来からこの時代へと託された「希望」なのだ。
「明日リボーンが来るなら、あの人にも修行を見てもらえるのかしら。だったらちゃんと私がお願いしに…」
「ねぇ、もうこの話はおしまいにしようよ。こっち来て。」
「あ…。」
お茶を煎れようと立ち上がったルイの腕を掴み、雲雀は自分の方へぐい、と引き寄せた。
部屋の中には2人きり。
恭吾が寝ている間が貴重な夫婦の時間になっていた。
「君、恭吾が来てから僕の事全然構ってくれないよね。そんなにあの子がかわいい?」
「あなただって…1日中私をそっちのけで恭吾とトレーニングルームにこもってるじゃない…。」
「じゃあその分…今夜は君と2人きりでゆっくり寝室にこもろうかな。」
「あん…やだ、こんなところで…。」
「やだ、じゃないでしょ?本当は嬉しいくせに…。」
奥の部屋にいる恭吾はつねっても起きないほど熟睡している。
ルイは雲雀の膝の上に乗り、その胸に頭をもたれた。
こうしているときが一番幸せだった。
左手の薬指には、タルボが作ってくれた金のリング。
雲雀の指にももちろん同じリングがある。
そっとその手に自分の手を重ねると、「夫婦」になったのだと心から実感できた。
自分の愛する人が自分の一番近くにいる幸せ。
それは何者にも替えがたいものだった。
「お風呂入って来てもいい?」
「じゃあ、僕も一緒に入るよ。」
「さっきあの子と入ったじゃない…。」
「風呂場でイチャイチャしようよ。」
「馬鹿…。」
「こっち向いて、ルイ。」
濃厚なキスにももう抵抗はない。
甘い感触に2人の時間が溶けてゆく。
汗ばんだ肌の感触も
吐息も
体温も全部…
うっとりとその感覚を楽しんでいると、雲雀はルイを畳の上に寝かせ、甘えるように覆いかぶさって来た。
戯れな行為に、少し苦しくなる事すら愛しい…。
ルイはそのまま、雲雀に身を任せた。
中庭に住みついた鈴虫が、夜の闇の中で涼しげに鳴いていた。
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