Route 66

□Episode8.レインボー・オブシディアン
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愛こそが全て

愛こそが全て

愛こそが…



■Episode8.レインボー・オブシディアン



屋敷の中は暗かった。

ドアは鍵がかかっており、呼び鈴を押してもだれも出てこない。

ナナはドアガラス越しにのぞくのをやめ、ガレージに回ることにした。

機械油の匂い。

灰色のガラが敷き詰められていた駐車場は背の高い草に覆われていた。



「アタシ達はいつもこっちから出入りしてたの。向こうはお客さん用だったから」

「…人の気配がねえな」

「うん」



静かだった。

自分の心臓の音ばかりが嫌に五月蠅い。

5年ぶりの、この場所。

懐かしさが込み上げるよりも先に恐怖がじわじわと迫ってくる。

そして…「あの日」の記憶が胸を突き上げた。



「ガレージの奥に工場があるの」

「工場?」

「機械のメンテナンスしてた作業所」



そこは、ナナが最後に過ごした場所だった。

錆びた引き戸は昔のように鍵が壊れたままで、ガタガタと音を立ててすぐに開いた。

ツン、と鼻を刺す酸っぱい匂い。

天窓から差し込む光が内部を照らす。

ナナはその場に立ち尽くした。



「…残ってる」



コンクリートの上に残った茶色い染み。

それが、床一面に広がっていた。

自分が犯した5年前の惨劇の跡。

周囲を見回せば、もっとほかにもあった。

柱に残った銃弾。

血まみれの手が触れた跡。

倒れた棚。

死体だけが片づけられたまま、そこは忌まわしい記憶を保存していた。



「アタシはここに呼び出されて…みんなに囲まれた。ママは出かけてて」



組織のアサシン達はナナを問い詰めた。

スパロワとナナが自分たちを殺そうとしているのだろうと。

ナナは否定した。

自分は暗殺稼業への転向はしない。

誰も傷つける気はないと…。



「でも、みんな信じなかった。みんな殺気立ってて…撃つしかみんなを止める方法はなかった」




死んだ仲間1人1人の顔を覚えていた。

子供の頃から一緒に育った幼馴染もいた。

みんな、家族だと思っていた。

その手は真っ黒に汚れていても、自分にとっては大切な仲間。

かけがえのない存在だった。




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