Route 66

□Episode1.プロローグ
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運命を変える男。

でも、ナナにとっての彼はスーパーマンや王子様じゃなかった。

だけどナナは幸せだった。

それはきっと、そんなお話。




Episode1.プロローグ




銃を棄てると決めた日から、ナナは専門学校に通い始めた。

習ったのは服飾。

メインは帽子づくりだった。

卒業後に曾祖母の家を改装して店を出した。

すると翌年にはそこそこ食べていけるくらいの稼ぎが得られるようになった。

そしていつ頃からか「変わったお客」が常連になった。



「今日はどうしたの?」

「へへへ。また穴開けちまってさ。」

「こんなんなってて、よく生きてるよね。」



これがいつものナナと次元の会話だ。

いつも帽子を修理してくれと言ってやってくる原因は八割が銃による焦げ穴だ。

しかも、脳天を直撃されたような穴が多いのだから笑えない。

だが、次元はナナの呆れ顔を見ていつも嬉しそうな顔をする。

ナナは勝手に彼を殺しても死なないタイプなのだろうと思っていた。



「スコッチねえの?」

「うちはバーじゃないの。」

「じゃ、それ。右の青いの。」

「氷ないよ?」

「んじゃ、買ってくるかな。」



帽子を修理する間、次元は勝手に酒を飲んで待っている。

来るのはいつも閉店ぎりぎり。

カウンターで椅子を軋ませながら、愚痴だかヨタ話だか分からないような話を延々とナナに聞かせる。

ナナもナナでよせばいいのに脇のミニキッチンでつまみやサンドイッチを作ったりする。

だから結局次元はそのまま夜までダラダラして帰るのだ。

こんな関係はもう、一年も続いていた。



「でな、またそんでそいつが修行に行くとか言っていなくなっちまうんだ。」

「へぇ…変わり者だねえ。」

「けど、いねえと寂しいもんなんだよな。」



次元はナナの『前職』を知らないはずだ。

だが、うすうす気づいてはいるらしい。

ナナは次元が何者なのかを知っていて話をする。

でも、だからと言ってどうもしない。

だから気楽だし、話も尽きない。

気の置けない異性の友人、といったところだ。



「お向かいの奥さん、次元のことアタシのヒモだと思ってるらしいよ。」

「そうだって言っとけ。帽子屋で酒のんで飯食って帰る客はいねえや。」

「じゃあ、今晩泊まってく?」

「バーカ。ガキができちまうぞ。」



ゲラゲラ笑いながら際どい冗談を言い合うのもいつものこと。

次元は1ヶ月に一度か二度とくらいのペースでナナの店に来る。

ナナはいつもそうやって次元が顔を見せるたび密かにホッとしていた。

次元は自分が棄てた世界に身を置いて生きている。

いつ来なくなってもおかしくはないのだ。




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