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□ 【第十八話】 京の都と鬼の花嫁
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「遅えな…。」

「イライラするな、親父殿。」

「オレぁ女の支度を待ってるのは苦手なんだよ。」



【第十八話】 京の都と鬼の花嫁



舅と婿が揃って新婚、などというのはそうある事ではない。

千汐は奥の部屋に入ったまま、もう2時間あまり出てこないでいた。

支度部屋には千咲と不二子が入っている。

外では機嫌の悪くなった赤ん坊の声が聞こえた。

銭形は横目でそれをチラチラと気にしていた。



「…無理したんじゃねえのか?まだ2か月なんだろう?」

「首が座ったからどうしても連れてくる、と不二子がきかなかったらしい。」

「あいつ…赤ん坊あやすの下手くそだ。」

「手元が落ち着かぬようだが?」

「…母ちゃんに手錠隠されちまったんでな。」



今日は銭形はルパンを追いかけない。

ルパンも逃げない。

そんな約束で2人が揃って式に出席する事が実現した。

忌々しげな視線に気づいたのだろうか。

何とか息子を泣き止ませたルパンがこっちの部屋に入って来た。

甘く暖かいミルクの匂いが漂っていた。



「五ェ門、ちょっと抱いててくんねえ?便所行きたくなっちまって。」

「次元はどうした?」

「ヤニ吸いに行っちまってよ。」



五ェ門が赤ん坊を受け取ると、幼いルパンは良く眠っていた。

ミルクを飲んだばかりで落ち着いているのだという。

その寝顔は笑ってしまうほどルパンに似ていた。



「ルパンめ…今日の主役に赤ん坊預けて行くたぁ、ふてえ野郎だな。」

「拙者が抱くのが一番泣かぬのだ。次元なぞ、この間そっくり返って泣き喚かれていたからな。」

「ま…それじゃあ、オレも嫌われそうだ。何せ、父ちゃんの敵だからな。」

「違いない。」



2人が笑っていると、煙草を吸って戻って来た次元が顔を出した。

その手には猫のぬいぐるみ。

不二子に渡されて、朝からずっと持ったままだった。



「もう泣かれねえよ。何回ミルク飲ましてやったと思ってるんだ。」

「お前…子守やらされてんのか。」

「とっつあんも練習しとけよ。オレなんか独身なのにゲップのさせ方までマスターしちまったぜ。」

「だったらさっさと泥棒から足を洗って保育士にでも転職するんだな。」

「バカいえ。髭面の保父さんなんか母ちゃん連中に嫌われらぁ。」



軽口を叩きあう2人の横で、五ェ門はすうすうと気持ちよさそうに眠る赤ん坊の顔を見ていた。

あのルパンが父に…。

そう思うと変な気がした。

隣にいる「義父」ももうすぐ子持ちになる。

月日の流れるのは早いものだ。

しみじみとそう思った。



「桜に…間に合ってよかった。」

「今年は少し早いって?」

「うむ。」



身内だけを集めた静かな結婚式。

桜のきれいな場所、というのが千汐の希望だった。

霞みのかかった京の大社。

支度の整った千汐はそれから少しして顔を出した。



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