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□【第八話】 パリの雨夜と忍び寄る影
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晴耕雨読。

そんな言葉があるとは言っても、そうはいかない。

そんな風に思った、パリの長雨。



【第八話】 パリの雨夜と忍び寄る影



2〜3日前から、千汐は悪い夢を見るようになった。

殺気を帯びた誰かが自分を探している夢。

それにいつまでも気を取られているせいで、雨に閉じ込められている日は一層憂鬱になった。

洗濯物は乾かないし、買い物も面倒になる。

ルパン一味もだんだん口数が少なくなった。

話題がなくなるのだ。



「じげ〜ん…」

「何だよ。」

「空港まだ開かねえ?」

「大気が不安定なんだと。」

「んあ〜…!くそっ、何も出来やしねえ!」



次元はずっとラジオで天気予報や交通情報を聞いている。

ルパンは不二子や五ェ門とトランプをやっていたが、そろそろ飽きてしまったらしい。

朝からイライラして、天気予報ばかり気にしている。

だが、雨がやまないのは仕方がない。

とっくに諦めた千汐は、朝から台所で大豆を煮ていた。

あまりにも暇だったため、味噌を作ってみることにしたのだ。

パリでも作れるかやってみたいと言うと、不二子が大豆と麹を手に入れてくれた。



「お味噌なんて、良く作る気になるわねぇ。」

「実家で手作りしてたの。巴御前が義仲様のために作ってたっていう、巴家秘伝の赤味噌だよ。」

「うげ…まじい。」

「こら、ルパン!お豆つまみ食いしちゃダメ!」

「そうかぁ?結構うまいぜ。」

「次元まで何してんの!」



ゆで上がった豆をたらいに開けると、ルパンと次元が横から手を出してきた。

みんな暇なのだ。



「オレ、豆好きなんだよ。」

「なくなっちゃうでしょーが!」

「良いじゃねえかちょっとくらい。」



次の仕事は日本でやるという。

パリでの準備は万端で、後は飛行機で一っ飛びするだけ、というところ。

だが、天気が悪すぎて飛行機が飛ばないのだ。

ルパンのアジト周辺も土砂降りで外にも出られない。

完全な缶詰め状態というわけだ。

みんなでワイワイ騒いでいると、部屋で本を読んでいた五ェ門もリビングに出てきた。



「千汐、麦麹は手に入らなかったのか?」

「ん〜…。パリじゃ米麹が手に入っただけで御の字だよ。」

「半々くらいで混ぜると美味いらしいのだがな。拙者も手伝うぞ。」

「タライに豆ぶちまけてどーすんだ?」

「潰すのよ。ルパンも手伝いなさい。」

「手じゃめんどくせぇよ。待ってろ、生肉ミンチにする機械持ってきてやらぁ。」



ルパン一家が味噌作りを始めた。

そんなまさかの光景をさっきからずっと見ている者がいた。

張り込み中の銭形警部。

雨の中で向かいの空き家の一室に陣取り、様子を伺っていた。



「情報によればルパン一味は日本行きを画策しているらしい…だが、この雨じゃぁ動けないという訳か。」



銭形は寒さを毛布でしのぎながらカップラーメンをすすった。

屋敷に踏み込もうにも、この大雨ではどさくさに紛れて逃げられ、失敗する可能性が高い。

さらに今はむしろ、ルパンのほかに警戒するべきものがあった。

恐らく、近いうちに千汐が何者かに襲撃されるだろう。

銭形はその警戒をしているのだ。



「しかし…フランスで味噌なんか作りはじめるたぁ、よっぽど暇なんだな…。」



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