Route 66
□Episode7.ライトニング・クォーツ
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「…かかった。」
驚くことに、車は勢いよくエンジン音を立てた。
恐らく最近まできちんと手入れと給油をされていたのであろう。
倉庫には他に何も入っていなかった。
ナナはハンドブレーキに手をやった。
すると、誰かが車の前にゆっくりと立ち塞がった。
さっきの男だった。
「やはり…あなたはテッセラクト氏のお嬢さんですね?」
「…それが何か?」
「待っていたかいがありました。」
男の手には銃があった。
「その手」の輩か。
金に眩んだ目をしていた。
「テッセラクト氏は周到な方でした。そのプレミアものの価値が下がるのを知りながら、鍵を偽造不可能なものに付け替えていたのですからな。」
「銃を下しなよ、おじちゃん。アンタの腕じゃ、この車に傷がついて終わりよ?」
「数億下がるくらいならお釣りが来ますよ。さぁ、大人しく手を上げて出てきなさい。」
言っている事が支離滅裂だ。
ナナを生かして帰す気もないくせに。
ため息をつき、右手だけを上げた。
「エンジンは?」
「止めろ。鍵をこっちに渡せ。」
「はいはい。」
エンジン音が止まり、ナナは左手を上げた。
だがその手にあったのは鍵ではなかった。
銀色の銃口が火を噴いた。
「ぐぁっ!!」
「メンテナンスありがとう。契約更新はまたの機会ね。」
弾いたのは引き金にかかった指の根元。
幸い相手は左利きだった。
一生銃は持てないだろうが、右手を鍛え直せば生きていけないことはなかろう。
ナナは倉庫街を抜けだし、広い国道に出た。
メーターでガソリンの残量を確認すると、アストリアの国境までギリギリ行けるくらいだった。
「夕飯の買い物は…無理か。」
周囲を走るドライバーが時々こっちを見てくる。
数年前のオークションで2750万ドルで落札されたとか何とか。
ナナは興味がないが、好きな人にとってはたまらないだろう。
これでまたよからぬことを考える者が現れる前に早く帰ろう。
そう思いながらアクセルを踏んだ。
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