Route 66

□Episode7.ライトニング・クォーツ
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「お金を払っているのに中の物を処分されてしまうのは権利の侵害じゃなくって?」

「我々の契約は『表』の法律とは外れたところで成り立っていましたからね、お嬢さん。」



貸主の男は倉庫への道を歩きながら淡々と言った。



「『期限』とはあくまで金銭的なものでなく、我々がお客様に対して責任を負える期限という意味ですから。」



男の口調から、ナナはその仕事の「リスク」の大きさを感じ取った。

周囲には番号の振られた倉庫がずらりと並んでいる。

その中身は一体何なのだろうか。

恐らく、聞いても答えてはもらえないだろう。



「ここです。中身を確認していただいて、契約の更新をされるようでしたらこの書類を事務所までお持ちください。」

「ありがとう。」

「ご名義の変更は少し時間がかかりますので、悪しからず。身分証明証も拝見しますのでね。」



中身を見て、この場所に置いておかなければならないようなら後で次元に来てもらうしかない。

ナナの持っている身分証は確かなものがない。

パスポートが代わりになるかもしれないが、アストリア公国のものは見たことのある者が少なく、10回に7回は偽造を疑われる心もとない代物だ。



「とにかく…開けよう。」



中身は何となく分かっていた。

きっと、ナナが見たことのあるものだ。

最初に見た猫の置物は小さい頃よく遊んでいたものだった。

プラチナの価値など子供には分からなくて当然だったのだから仕方ないが、恐らくあれは車が1台買えるくらいの代物だ。

それに時にはクレヨンで落書きなどしていたことを思いだし、ナナは今更恐ろしくなった。

この倉庫にあるのも恐らくはそれと同じくらいかもっと価値のあるものであり、同時にナナにとって懐かしいものに違いない。

ナナは鍵穴に鍵を差し、ゆっくりと回した。



「…やっぱり。」



引き戸の向こうから現れたのは布を被った1台の車。

布を剥がすと、その美しい深紅のボディーが現れた。

275 GTB/4*S N.A.R.T. Spyders

カーマニアが聞けば発狂する超プレミアもののフェラーリであった。



「パパの車だ…。」



ナナはシートに顔を埋め、その懐かしい香りを楽しんだ。

子供の頃、家の前に座ってこの車が来るのを待っていた。

父は西にある検問を通り、この車で家にやって来た。

アメリカの匂いのする赤いスポーツカー。

それはナナにとって数百億円の価値のあるお宝という前に愛する「パパの車」だった。

鍵束を見ると、その中に車の鍵が1本あった。



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