Route 66

□Episode6.アパタイト・キャッツアイ
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予想以上に収穫がなかった。

テッセラクトはママ・スパロワの今の居場所を知らなかった。

しかも、起きているのがやっとの健康状態。

あれではとてもじゃないがナナを助けてやってくれなどと言えない。

幸いだったのは彼が次元を受け入れ、ナナを任せる、と言ってくれた事くらいだった。



「いつ止まってもおかしくない心臓抱えてちゃなぁ…頼れねえよなぁ…。」

「ダイシケ、何1人でぶつぶつ言ってる?」

「…大介だよ。」



振り返ると、仕事仲間の軍人がコーヒーを持って立っていた。

インド出身のコンピューター技師。

次元と同じ「お雇い外国人」というわけだ。

今日は月4回の出勤日。

この男とはその出勤日が重なっており、その度に顔を合せていた。



「知り合いが心臓の病気でよ。いつ死んでもおかしくないってんだ。参ったぜ。」

「ワタシのお兄さんも心臓悪くて死んだ。」

「そうか。」

「私の家、とても貧しい。アストリア給料安い。本当は日本で働きたかった。」

「そうなのか…。」

「ダイシケ、日本人なのになぜ日本で働かない?日本お金ある、病院もスバラシイ。ダイシケの知り合い、心臓の病気も直せる。」



男の言い分ももっともだった。

テッセラクトも日本で治療を受けさせれば病気が少しはよくなるかもしれない。

余命宣告を超えて生きているのだ。

その希望はある。

だが、彼はそんな事は望まないだろう。

昨日会ったテッセラクトの顔は、死を受け入れた者の顔だった。



「けど…一度くれえ娘には会わせてやりてえよな。」



テッセラクトに会った事はまだナナには話していない。

「カッコ悪いから言わないでくれ」と念を押されたからだった。

だが、本当にこのままではいつお別れが来るか分からない身。

家に帰ったら正直に話そう。

次元はそう決心した。



「そういや…そろそろクリスマスか。」



暗くなりかけた頃王宮を出て、家路についた。

ナナは今日は店を開けたのだろうか。

路地を曲がると、チカチカと点滅する緑と赤の電飾が見えた。

店の前にはデコレーションの道具を持ったナナや近所の住人。

看板の上には大きなサンタクロース。

外壁には電飾で作ったトナカイの群れ。

ショーウィンドゥには”Merry X'mas”とスプレーで書かれていた。



「あ、お帰り!」

「お〜…すっげえな…。」

「毎年ウチの店でやることになってるの。去年も見たでしょ?」



ナナは久しぶりに明るい顔をしていた。

去年も確かに次元はこの装飾を見ていた。

あれは12月26日の夜だったか。

久しぶりに行くといつもより店が派手になっていて、一体どうしたのかとナナに尋ねたのだ。

ナナは笑って、明日外すつもりだ、と言っていた。



(クリスマスに見に来るのが遅れた人が毎年悔しがるから1日余計につけとくの。)

(何だよ。オレが来るの待っててくれたのかと思ったぜ。)

(じゃ、そういう事にしといてあげる。)



お互いを意識し始めた頃の甘酸っぱい思い出。

あの頃はまさか1年後に自分がこの家に住むなどとは思わなかった。

通りでは早くもカメラを持ち出して写真を撮っている者もいる。

周囲にも何件か同じような事を始めた店があった。

次元はイベント事には疎いほうだが、1年に一度こんな雰囲気を楽しむのも悪くないと思った。



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