Route 66
□Episode6.アパタイト・キャッツアイ
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「それから何年もナナはスパロワに預けっぱなしさ…。ナナはめったに会いに来ない僕より、スパロワを母として慕ってた。」
思春期にはナナはテッセラクトに反抗し、口も利かなくなってしまっていた。
そして、ようやく和解したのが22の時。
スパロワの組織での事件があった後であった。
ナナはテッセラクトにだけは全部本当の事を語った。
自分は生きるために殺した事。
暗殺者になれというスパロワの命令に背いた事を…。
「僕はすぐに部下をスパロワのところへやった。でも、彼女も生き残った部下たちももういなかった。」
「…スパロワを暗殺する気だったのか?」
「場合によってはね。でも…ナナにやめてくれって言われたのさ。」
ナナはもう誰も殺したくないと言った。
自分の身は自分で守る。
だから「兄妹喧嘩」は起こさないでくれ、と。
「考えた結果、僕はナナをベルギーにやった。そこで手に職をつけて、真っ当な生き方をしなさいって言ってね。」
ナナは専門学校に入学し、帽子造りの技術を身につけた。
そして、故郷に戻りあの家で店を始めた。
紛争中に祖父母は亡くなっていたが、家はきれいに残っていた。
幼かった頃の思い出の場所。
家族で暮らしていた頃がそのままに…。
「その頃から僕の病気は目に見えて悪くなった。それを聞いた奴らは今まで以上に執拗に僕をつけ狙っている。」
「…アンタがアストリア公国に入れないのはそのためか。」
「ナナが僕の娘だと知っているのは峰不二子と君、それからスパロワと…僅かな人間だけだ。」
公にはテッセラクトに肉親はいない事になっている。
いれば世界中の暗殺者が狙うだろう。
紛争から立ち直り、ようやく平和を取り戻しつつあるアストリア公国にも災いを持ちこんでしまう。
だから今、テッセラクトはナナに接触する事を避けているのだ。
これ以上愛する娘を危険に晒さないために…。
「こんな目に遭うなら…わざわざ整形で顔を戻さなくてもいいと思うだろう?」
「…まぁな。」
「だが…散々顔を変えたことでナナにはずっと寂しい思いをさせたからな。」
整形して家に帰るたび、幼いナナは「知らない人が来た」と言って泣いた。
ナナがスパロワの組織に入って成長してからも何度も会いに行ったが、その度にナナは目の前に現れた人物の正体を質さなければならなかった。
愛する1人娘のナナは自分の本当の顔を知らないで育ってしまった。
だから最後の時…。
自分が死ぬ時はテッセラクトも本当の自分の顔で死にたいと思ったのだ。
「アンタはあとどれくらい生きられる?」
「医者に宣告された余命はとっくに超えているよ。冗談抜きでいつお迎えが来てもおかしくはない。」
「…その事はナナは?」
「なぁ、次元。僕の組織にいた時…君、自分が何と言われていたか覚えているか?」
「は…?」
唐突な質問。
きょとんとする次元を見て、テッセラクトはクックッと笑った。
その指先が、次元の真後ろにある鏡を指していた。
「思い出せよ。君も相当気にしていたじゃないか。」
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