Route 66

□Episode6.アパタイト・キャッツアイ
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「暗殺者の目はごまかせても死神の目はごまかせないね。今までの行いが悪かったせいだ。」

「…心臓が悪いのか。アンタも老いたな…。」

「いやいやいやいや…君もこうなりたくなかったら女房の言う事は聞くべきだよ。僕のようにボロボロになる前にね。」



テッセラクトはそう言って苦しそうに椅子に座った。

客室係がコーヒーを持ってきてくれるのを待って本題に入る。

次元は順を追って今までの事を説明した。

自分とナナの関係。

ナナとママ・スパロワの因縁。

カイトという男を殺した事…。

先日起こった事の話を聞くと、テッセラクトは苦い顔をした。



「そんな事になってしまったか…ナナはなぜ、僕に相談しなかったんだ…。」

「スパロワとアンタはどういう関係なんだ?」

「いわゆる…血の繋がらない兄妹だ。子供の頃に親が再婚してね。」



アメリカ出身のテッセラクトは18で家を出るまで家族と共にハーレム地区で育った。

黒人と白人のハーフであるスパロワの母が幼い彼女を連れて家にやってきたのは8歳の頃。

父や母は家に居て居ないような人物で、テッセラクトとスパロワは早くから不良仲間と一緒に盗みや強盗で稼ぐことで命を繋いでいた。

しかし、ある時両親が麻薬の売買容疑で逮捕される事になり、2人は家を出る事を決意。

そのときギャングの知り合いがテッセラクト達に紹介した仕事がアストリア公国への物資の密輸を手伝う事だった。



「中身は知らされず、ただ運搬人として僕はあの国へ入った。そうするうちに…だんだん世の中の事を覚えてね。」



スパロワは16の時に恋人と共に別の国に行ってしまった。

残ったテッセラクトは組織の中で頭角を現し、より稼げる方法を開拓していった。

そして気づけば組織の幹部になっていた。



「ナナが生まれたのはその頃さ。自分に良くしてくれる家族がいてね。そこの1人娘と結婚した。」



貧しいアストリア公国で金を持っている外国人は歓迎された。

祖母と両親の4人で暮らしていたナナの母は、テッセラクトに「家庭」を与えた。

気立てがよく、優しい性格の妻はテッセラクトの心の支えだった。



「生まれて初めてだったよ…僕に家庭の暖かさと幸せを教えてくれた、最高の女だった。」



しかし、その幸せは突然終わってしまった。

テッセラクトの妻はナナを産んだ時のお産が重く、生まれた子の顔を見ることなく亡くなってしまったのである。

生まれて初めて本気で愛した女の死…。

それはテッセラクトの心に大きな傷を与えた。



「僕は絶望した。でもね、妻の両親もお婆様も…僕にずっといて欲しいって言ったんだ。ナナのパパとして…あの家にね。」



ナナの母が亡くなった後も、今は次元が寝泊まりするあの部屋でテッセラクトは暮らしていた。

1人娘は愛らしく健やかに成長した。

穏やかな日々だった。

しかし…。

ナナが3歳の頃紛争が起こり、テッセラクトは複雑な立場に立たされた。

所属していた組織のボスが暗殺されテッセラクトがトップに立つと、全く家にも帰れなくなった。

さらには暗殺者の目を逃れるため、何度も整形手術を施さなければならなくなった。

アストリア国内では外国人の排斥運動も盛んになった。



「今思えば…僕がナナを連れてアメリカに亡命でもさせていればよかったんだろうね。でも当時は…そんな考えはなかった。」



当時のテッセラクトにとって、妹であるママ・スパロワの組織が一番安全に感じられた。

スパロワはテッセラクトと同じように配偶者と死別し、自分の組織を築き上げていた。

娘を預かって欲しいという兄の頼みを聞き、スパロワはアストリア公国からナナを連れ出した。



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