Route 66

□Episode6.アパタイト・キャッツアイ
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昨日の夜、ナナの夢にママ・スパロワが出て来た。

スパロワは銃を構え、赤ん坊の寝ている揺りかごに向って引いた。

銃弾は当たらない。

何度撃っても当たらない。

銃声と、赤ん坊の泣き声だけが響き続けた。



(ママ、やめて!!)



叫んだが、声は出なかった。

スパロワは振り返り、ナナのほうを見た。

泣いていた。

まだ若いころの彼女だった。



(カイトを殺したのはアタシだよ、ママ。)



かすれる声でナナは言った。

スパロワには聞こえていないようだった。

止めなければ。

でも、脚が動かなかった。



(みんな、みんなアタシが殺したの!その子を撃たないで!!)



スパロワの口が動く。

何を言ったのかは聞こえない。

彼女は再び赤ん坊のほうを見て銃を撃った。

最後に撃った一発。

それが揺りかごを弾き飛ばした。



(やめて――――――!)



目が覚めた時、ナナは泣いていた。

子供のころ以来の酷い悪夢だった。

起きた時、次元は出かけていて既にいなかった。

開店時刻になって店を開けたが、眩暈と吐き気がおさまらず、立っていられなかった。

もしや妊娠したのではないかと思い、産婦人科には既に行っている。

悪阻ではないと医者には言われた。



「大介…。」

「ん?」

「苦しい…。」



台所に立つ次元の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。

こうしていると少しは落ち着いた。

次元は困っている様子だった。

どうしてやったらいいのか分からない、と思っているのだろう。

ナナにもどうして欲しいのか分からない。

ただ、次元の体温が欲しい気がした。



「なぁ。」

「何…?」

「今度、日本にでも行ってみるか?」



次元は鶏肉を刻みながら言った。

日本は次元の故郷だ。

ナナの中にも日本人の血が流れている。

行けば気分が少しは晴れるかもしれない。

そういう考えのようだった。



「具合悪いなら無理はできねえけどな。精神的なもんで具合がよくねえなら…」

「…行く。」



ナナは次元の首元に顔を埋めた。

このままでは嫌だ。

そう思っているのはナナも同じだった。



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