Route 66

□Episode5.デザート・ローズ
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異変に気づいてママ・スパロワはすぐさま現場に駆け付けた。

そして、その光景の一部始終を見た。

自分の育てた「子ども達」が殺し合う光景を…。



(いやぁああああああああ!!!!!!)



真っ赤な血

銃声

砕け散る窓ガラス

死体の山が築かれていく巨大ガレージ。

血に塗れ、自分に向けられた殺意を振り払う1人の女。

自分が育てた中で最も優秀な、娘。

ナナはあまりに異質だった。



(ママ…。)



銃声が鳴り止むと、ナナはゆっくりと振り返った。

生きていたのは彼女だけ。

血に塗れたその身体には傷一つついていなかった。

少なくとも…外から見える身体に関してだけは…




(ごめんね…ママ。)

(何て事を…!アンタ、自分が何やったか分かってんのかい…!!)

(…アタシはもうこの組織を抜ける。)

(ナナ…!)

(アタシを殺したいなら誰かを寄越せばいい。アタシはそれだけの事をした…分かってるから。)



スパロワは泣き崩れた。

もうすべて終わりだ。

そんな事はもう分かっていた。



(全部アタシが悪いんだ…。)



ナナは言いわけする気などしなかった。

襲われたのは自分。

だが、そう言えばきっとスパロワは苦しむだろう。

ママを悲しませたくない。

その一心で、ナナは嘘をついた。



(もうお金もプライドも要らない…アタシは自由に生きたいんだ。)

(アタシから離れて…何にも持ってないアンタが生きていけると思うのかい…!)

(私は…いつだって何も持たずに生きてるのさ。)



そしてナナは組織を去った。

遠い街で名前を偽って服飾の専門学校に通い、帽子作りを学んだ。

できるだけ地味で自由な仕事がしたかった。

学校の卒業後に紛争のおさまった自分の国に戻ってみると、運よく曾祖母の家が焼けずに残っていた。

ナナはそこで小さな帽子屋を開いた。

自分の過去を知る者のいなくなった街…。

紛争の傷跡から回復する街の空気に少しずつ馴染むうち、ナナの心も少しずつ癒されていった。



「スパロワの組織の奴らはオレ以外に来なかったのか?」

「来たけど、殺さずに追い返せるような奴らばっかだったよ。銃を抜くまでもなかった。」

「まぁ…そうだろうな。」



ママ・スパロワの組織の名は、ある時を境に世間では聞かれなくなった。

それまでは何某かの通り名を持つ暗殺のプロが裏社会の者達を怖がらせ、腕のいい怪盗が名を上げていた。

しかし、ナナが引き起こした事件以降それはぷっつりと途絶えたのである。

名のある殺し屋は皆死んだ。

そして、彼らを屠った女怪盗もこの『世界』から姿を消した。

2つの柱を失った秘密結社はまるで立ち消えるように力をなくしていった。



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