Route 66

□Episode5.デザート・ローズ
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殺しを仕事にするのは特殊な人間。

スパロワはそうナナに教えて育てた。

普通の生活などできない、人殺ししか手段のない人間の仕事が「殺し屋」なのだ、と。

実際、ママ・スパロワに手懐けられたアサシン達は目に狂気を宿した連中ばかりだった。

人を殺す事に何の罪悪感も持たない特殊な人間。

普通の会話をしていれば他の人間と違和感がない。

だが、人の「死」に関しての考え方だけが異質。

きっと頭のどこかが少しだけ壊れているんだろう。

ナナはそう彼らの事を理解していた。



「いわゆる…サイコパスだな。」

「うん。ママはそういう…他では生きられない連中の居場所を組織の中で与えてたの。だから…そのままなら良かったんだ。」



殺しをやりたい者はほかにいくらでもいた。

だから、ナナに人殺しになる必要なんてなかった。

ナナは誰の血も流さず、お宝だけを奪ってくるように教育されていた。

命か、宝か。

両方を奪ってはならないというのがナナのアイデンティティーだった。

人の命はナナの標的ではなかった。

しかし…ナナはそうあろうとすればするほど、「暗殺者」としての素質を輝かせてしまった。



(アンタ程のウデのある人間は他にはいないよ、ナナ。お前はもう泥棒の枠を出てしまったんだ。)

(何言ってるの…ママ、アタシは人殺しなんて…。)

(できるのさ。だってあんたの持ってる銃は…人を殺すために作られた武器だよ?)



それはナナが無視し、考えないようにしていた事実だった。

ナナは自分の身を守るためにしか銃を使ってこなかった。

相手の武器の息の根を止めるため、寸分違わず仕留める技術を磨いた。

しかし、そのターゲットマークを人間の心臓に向ければ…。

相手を一瞬も苦しませる事なくあの世に送ることができるのだ。



(今組織にいる連中は殺す時に相手をおもちゃにしたがるんだ。)

(おもちゃ…?)

(悪いことを覚えちゃったもんだよ。どれだけ苦しませて殺すか…そんな事をいつも仲間同士で競い合ってる。)



自分の「教育」が間違ったと、ママ・スパロワは嘆いていた。

組織の人間の多くが子供の頃からスパロワの組織で育った者たち。

彼らが暗殺者としてこの組織で育つ中で、同時にその「狂気」を育んでしまったのだ。

命の尊厳など彼らには分からない。

そんな者達に仕事を続けさせればいずれ何かまずいことが起きる。

それに危機感を覚えたスパロワはナナに「鞍替え」させる事を思い立ったのである。



(アンタはいい子だ、ナナ。アタシが教えたとおり…ちゃんと命の重みが分かる子に育ったね。)

(ママ…。)

(だから、お前にはできるはずだよ。ターゲットを…一瞬たりとも苦しませずにあの世に送ってやることが…。)



分かった、などと言えるはずがなかった。

苦しむ、苦しまないの問題ではない。

ナナは殺しをするために生きてきた訳ではない。

人を殺すために銃を持ったのではない。

自分には出来ない。

ナナはハッキリとそう言った。



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