Route 66
□Episode5.デザート・ローズ
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触っちゃだめさ。
触ったら崩れてしまう。
いいかい?
お前はいい子だ。
ずっと美しいままにしたかったら、そっと見つめるだけにおし。
Episode5.デザート・ローズ
他人の過去になど、あまり興味を持ったことがない。
だが、次元はナナが語り始めた5歳からの物語を聞きながら、気づくと3杯目のウィスキーを空にしていた。
星明りだけが差し込む部屋で身を寄せ合いながら、久しぶりに何もない夜を過ごした。
夜に目が慣れてしまえば、薪ストーブの炎の明かりだけで部屋の全部が見える。
ナナは冷めたホットワインを手の中に握ったまま、静かに語り続けた。
「ママ・スパロワは私の実の父に頼まれて私を連れ出したんだと思う。」
「お前の親父に?」
「パパなら…複雑な出自のアタシが、いずれ国に捕えられてしまうのを知っていたはずだから。」
第1次紛争が起こった時、アストリア公国は外国人を排斥する政策をとった。
政府は国外退去の方針を打ち出したが、軍は国の温情策に逆らい、もっと強硬なやりかたで異国の者達を排除した。
推定では、7,000人もの外国人が軍によって殺されたという。
のちに第2次紛争の引き金となるこの軍部の暴走は、まだ自分が何者かも分かっていない子供らにも及んだ。
日系人の父を持つナナの身は危険に晒されていた。
「12歳になるまでアタシはスパロワをホントのママだと思ってた。だからアタシは…ママに気に入られたくて銃の腕を磨いたんだ。」
スパロワはナナに色々な「実験」をした。
色々な事をやらせ、ナナが何に向いているのかを見極めた。
その中でナナが際立った才能を見せたのが銃、そして盗みだった。
「子供の頃はもっと目が良かったから、銃弾が届きさえすればなんだって撃てた。何でできたのか…アタシにも分からないけどね。」
ナナは天才だった。
そして、ガンマンとしての体格に恵まれていた。
大きな手と、強い肩。
だから、思春期を過ぎて身体が出来上がってくるころにはその外見とは似つかわしくないような大きな銃を平気で扱っていた。
一番ぴったりだったのはコンバットマグナムだった。
「13の時が初仕事で、それからずっとママの言うとおりにいろんなものを盗んだ。みんな悪い奴の持ち物だったから、罪悪感なんかなかったよ。」
小さい物ならマイクロチップ。
大きなものならフェリーを盗んだ事もあった。
楽しくて仕方がなかった。
自分に盗めないものなどないと思った。
ママ・スパロワはナナの仕事がルパンや次元など他の泥棒とバッティングしないように調整していた。
だがナナは、いずれは自分よりも大物と勝負したいと思っていた。
「でも、そうなる前に終わりが来た。ママは私を…泥棒で終わらせるのが惜しくなったんだ。」
スパロワはナナに暗殺者への転向を命じた。
取り分は泥棒を専門にするより多いと言われた。
だが、ナナはそれを断った。
人を殺して金をもらうのは嫌だった。
ナナはそんな風に「教育」されていなかった。
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