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□【第二十話】 ゲイシャガールは鬼畜の顔を見たか
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ヨーロッパ圏の男は良く香水を使う。

それは、日本人に比べて体臭がキツイからだ。

しかし、香水というものはその「体臭」と混ざってこそ効果を発揮するのだとルパンは言った。



「これは、フランスの調香師がオレ様に合ったカオリになるよーに作ってくれた香水。オレ様がつける事で最高のパフュームになるのさ♪」

「じゃあ、他の人がつけたらダメ、って事…?」

「だろうな。試しに五ェ門につけてみると…」

「こっ、こら!!何をする。」

「うえ…やっぱダメだ。」



その香水をルパンがつけていると品の良い香になる。

それなのに、五ェ門がつけると消臭剤のような嫌な匂いになるだけだった。

五ェ門はたまに汗臭いくらいで普段は特に体臭が気になる男ではない。

だから、自分から進んで匂い付けする必要がないのだ。



「ほらな、千汐。五ェ門みてえなショーユくせえ奴には香水は向かねえのよ。」

「醤油臭いとはなんだ!お主こそいつも化粧臭い匂いばかり漂わせおって!男のくせに女々しいぞ!」

「女々しかねえや!西欧の紳士は昔っから香を嗜む伝統があんの!」



ぎゃあぎゃあ言い合う男たちの前で、千汐は香水のボトルを手にぼんやりと考え込んだ。

たった1人にしか適合しない香…。

その言葉が、千汐の心に引っかかった。



(まさか…。)



店に戻ると、高尾が店の男と談笑しながら廊下に立っていた。

その着物からふわりと香ったメンズの香水。

千汐は黙ってそのそばを通り過ぎた。

そして、高尾の部屋の前まで行くと天井を見上げた。



「あれから…1週間経ってるのに…。」



僅かにその場に血の匂いが残っている。

ツンと鼻を突く鉄臭さ。

千汐はぎゅっと唇の端を噛んだ。



「…見つけた。」



その夜、千汐の部屋には客が来なかった。

「月のものが来た」と言って休みにしたのだ。

高尾も同じことを言って休んでいた。

夜半を過ぎた頃、彼女は千汐の部屋にやって来た。

休みのゲイシャが暇つぶしに他の部屋に行くのは普通の光景。

店の者は何の警戒もしていなかった。



「千汐ちゃん、悪かったなぁ…うちのうつってしもたかぁ?」



衣擦れの音をさせながら、高尾はゆっくりと入って来た。

千汐はほつれた着物の裾を縫いながら後ろを向いたまま「へぇ」と返事をした。

同じ空間に住んでいると、女同士で月のものがうつる時がある。

そんな経験が千汐には何度もあった。

女ばかりの巴の家ではよくあることだった。



「お互い様やし…気にせんといてください。」

「けど、千汐ちゃん有望株やし、いきなりお休みにさせたら店に怒られるわぁ。」

「そんな、分かってますやろ?」



高尾の身体からはあの香水の香がする。

嫌味でないが、濃厚で、着物の女には似つかわしくない香…。

出窓の方へ歩く高尾からその香がふわふわと部屋に漂って、千汐は思わず緊張を覚えた。



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