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□【第二十話】 ゲイシャガールは鬼畜の顔を見たか
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「そうだったんですか…。」

「そういえば千汐ちゃん、昨日はえらい激しかったなぁ?」

「え…。」

「まるでほんまに好きな人と寝てるみたいやったで。この調子でおきばりや。」

「へ…へえ。おおきに…どす。」



千汐は一瞬ドキッとしてしまった。

まさか、客を誤魔化して五ェ門と寝ていたのがばれたのか…。

高尾は意味深な笑みを浮かべて部屋に入っていった。

そのときふと、何かの甘い香りが千汐の鼻を擽った。

どこかで嗅いだことのあるオーデコロンの香だった。



「ゲイシャ、ならもっと和っぽい香りにすればいいのに…。」



高尾の着物から香ったのは男物のオーデコロンだった。

好きな男の香なのだろうか。

千汐の友達にも彼氏と同じ香水を使っている子はいるが、それにしても似合わない香だった。



「それより…早くジャックを見つけないと。」



潜伏した五ェ門と共に、千汐は夜な夜な客を観察した。

しかしそれから1週間…

なんの収穫もないまま時間が経った。

もうジャックは来ないのではないか。

時間が経つにつれ、そんな疑念が頭をもたげる。

映画会社とは「2ヶ月」の約束だ。

早くしなければフィルムのほうが先にできあがってしまう。

焦りを感じ始めていた。



「だ〜めだ。変なオトコは山ほど来るらしいが、ぜってえジャックだ、ってのは店のお姉ちゃんたちも見てないぜ。」



昼になってから五ェ門と共に店を抜けだし、千汐はルパンと定食屋で落ち合った。

ルパンは昨夜余所の店で店主の頬を札束で叩き、5人の女を部屋に呼んだという。

そして、明け方まで豪遊しながら話を聞いたが、「外国人の変な客」でジャックらしき男の情報は出てこなかったらしい。

聞くのは性癖のおかしい客のアブノーマルなプレイの話ばかり…。

だが、そこには女を殺してまで快楽を得ようとする人間はいなかった。



「既に殺された女がいた、って話はないの?」

「あったけど半年前だ。なじみの客と無理心中した女がいたらしい。」

「私が聞いたのと同じ話かぁ…。」



昨夜までの収穫は少なかった。

唯一大きな手掛かりになると思われたのは、監視カメラの映像をコマ撮りした写真だった。

五ェ門はそれをうまく店から持ち出していた。



「うちの店の店主がもしもの時のためにこっそり客の顔を写真に撮っていたのを拝借してきたのだが…どうだ、ルパン?」

「げ…これいつから?」

「拙者達がデトロイトで映画関係者と接触した日の分からだ。」



その数、合計3000枚以上…。

変装を普段から仕事でしているルパンが見れば地顔でない人間はすぐに見抜けるという。

だが、写真の山を見た彼はうんざりした顔をした。



「うえ…これ全部見んの?」

「今夜までに済ませてくれ。では、拙者は仕事に戻る。」

「私も戻って寝る〜。」

「何だよオレも寝てねえんだよぉ〜。」



ルパンはぶつくさ言いながら胸ポケットから何かを取り出した。

それはフランス製のメンズ香水。

手慣れた手つきでそれを手首に吹きかけると、そのまま首筋や耳の後ろに擦りつけた。

少しむっとする甘い香り。

千汐には少しキツイように思った。



「あれ?それいつもと違う香水?」

「うんにゃ?同じだぜえ。」

「だっていつももっと軽いじゃん。」

「千汐ちゃん、香水ってのはね、オトコの身体のニオイと混ざって極上のカオリになるのよ〜?」

「え…。」



変な顔をする千汐に、ルパンはむふん、と笑って見せた。




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