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□【第二十話】 ゲイシャガールは鬼畜の顔を見たか
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翌朝…。
客はすっかり満足し、「絶対にまた来る」と言って帰っていった。
千汐も「寝乱れた姿」でその後を名残惜しく見送った。
もちろん、「名残惜しいふり」であったが…。
部屋に戻ると、千汐を寝乱れさせた「真犯人」がしれっとした顔で座っていた。
「ばれてなかったろう?」
「…まぁね。」
「そなたに他の男が狼藉を働くのは許せぬからな。」
「客よりよっぽど『狼藉』を働いたのは誰よ…。」
「そなたの『仕事ぶり』を演出する手助けをしてやったのだ。」
傷面の五ェ門は悪い顔でニヤリと笑った。
昨夜は隣でぐうすか眠る客の代わりに五ェ門が一晩中千汐を良いようにして明かしたのだ。
おかげでアリバイ工作はバッチリ。
千汐は「仕事のできるゲイシャ」として店の者に印象付けられた。
五ェ門に至ってはかなり「スッキリした顔」をしていた。
「ルパンから連絡は?」
「明け方隣の店からあった。特に怪しい者の気配はなかったらしい。」
「…もしかして昨晩はお店の女の子とマジで浮気?」
「いや、不二子にすごい数の盗聴器を仕掛けられていたからそれはできないだろう。」
「こわ…。」
ジャックはどこからこの店に現れるのだろうか。
少しでも情報を探ろうと、千汐は「昔の男」や「風俗に入り浸りの友達の彼氏」を探すふりをして他の女たちに話を聞いた。
もしかしたら既にリサーチに入っているかもしれないと踏んだのだ。
だが、外国人の客などすごい数いるわけで、女たちがいちいち1人1人を覚えているわけがない。
なかなか有力な情報はなかった。
「毎回来てくれるお得意さんやったら顔覚えとってもええけど、外人さんは1回きりばっかりやからなぁ。」
「ほんま、正直お金出してはよかえってくれたらええ、って感じやもんなぁ。」
「そうかぁ…。」
昨夜客をとった女たちの中には外国人の相手をした者はいなかった。
初日の収穫はなしか。
千汐は一寝入りしようかと自分の部屋へ続く廊下を歩いた。
磨かれた板張りの廊下を欠伸しながらぺたぺたと進む。
すると…。
廊下の一番奥に何か黒いものがあるのが見えた。
「あれ…血?」
そこは、ナンバーワンのゲイシャ、高尾の部屋の前だった。
床に溜まった黒い液体。
赤みがかったそれは、間違いなく血液だった。
黒く濁っているということは静脈血か。
千汐はとっさに五ェ門を呼ぼうとした。
しかし、その時スッと襖が開き、中にいた女が千汐を止めた。
「恥ずかしいからやめてえな、千汐ちゃん。これ、ウチの血やぁ…。」
「高尾姉さん…。」
「月のものが来てしもてん。うっかりしててな。黙っといてんか?」
客が帰った直後に月経になり、下着をつけずに廊下に出てうっかり経血を垂らしてしまった。
この店の女にはよくある失敗だ。
高尾はそう言ってさっと廊下の血を拭いてしまった。
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