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□【第二十話】 ゲイシャガールは鬼畜の顔を見たか
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「っていうか、これホントに2日で作れたのかな…。こんな精巧なの、前から用意してなきゃ無理じゃない?」

「…いや、ルパンなら可能だ。」

「そうかなぁ…。」



千汐は納得がいかないままそれを畳の下に仕込みなおした。

ルパンは今回、客に扮しているらしい。

だが同じような店は数件あり、ジャックが他の店に行ってしまう可能性もある。

そのため、今は何か「仕込み」に行っているようだった。



「千汐ちゃん、入ってもええか?」



外から呼ばれて返事をすると、開いた襖から鈴の音がした。

現れたのはこの店でトップの「ゲイシャ」。

白魚のような手が襖を引き、色白の美しい女が姿を現す。

『高尾』という源氏名で働く彼女の扱いはまさに「花魁」。

千汐だけでなく、五ェ門も端に寄ってお辞儀をした。



「何や、悪かったなぁ…間夫(まぶ)が来てたとこやったんやぁ。」

「いえ、高尾さんオレはもう下へ行きます。」

「ごめんな五ェ門、ちょっと千汐ちゃん借りるえ。」



間夫、というのは遊女の個人的な恋人の事だ。

五ェ門は部屋を出て下へ降りていった。

他のゲイシャ達とは違って正真正銘の京都生まれだという高尾。

現れるだけで空気が変わるほどの美女だった。

しかも自分なりにより昔の遊女らしく見せる方法を研究しているらしい。

その身のこなしも何となく他とは違って見えた。



「今日、千汐ちゃん『つき出し』やんなぁ?」

「へぇ…。」

「ちょっと気ぃつけて欲しいお客さんいるんよ。うちのお得意さんなんやけどな。」



高尾は、その客を受け付けないように千汐に言った。

基本的に先輩の得意客を「盗る」のは厳禁だ。

しかし、好色の金持ちの中には「初物」を食いたがる者が多い。

千汐が新しく店に入るのをその客が早くも耳に入れたらしいのだ。

早々に面倒な事になるのは千汐も嫌だ。

とりあえず千汐は「分かりました」と返事をしておいた。



「お姉さんに迷惑かけるような事はしません。」

「おおきに。そういえば…アンタの間夫、ええ男やなぁ…。」

「へ?」

「五ェ門の事や。ウチ、ああいう古風な男がタイプやねん。」

「はぁ…。」



高尾はうっとりと少女のように頬を染めていた。

五ェ門に気があるのだろうか。

遊女は「惚れたふり」がうまくて何ぼだというが、どうやらそんな風ではない。

間夫ではなくて本当に私の「夫」なんですが…。

そんな事は言えず、千汐はじっと黙っていた。



「こう見えてもウチ、狙った獲物はのがさへんのよ?気ぃ付けてな…。」

「へぇ…高尾姉さん。」

「ほな、またなぁ〜。」



スッと襖を引いて高尾は立ち去った。

自分の客を盗ったらお前の男を奪ってやる。

そういう事なのだろうか。

念の言った脅しである。

初日から一体何なのか…。

千汐には訳が分からなかった。



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