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□ 【第十三話】 遥かなる時代の記憶
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「私たちの事を…いつか思い出してくれる者が現れる。そう願い、あの旗に図示したのです。」
「そうだったのか…。」
「ルパン殿。」
振り返ると、5人をそれぞれの『世界』に誘ったヲワケの末裔が立っていた。
その首にはあの白い勾玉の首飾り。
ヲワケはそれを、ルパンの首にかけた。
「これ…くれんの?」
「昔のような力はないがな。これは紛れもないお宝…我らの記憶だ。」
「父上、では…。」
「オホヒコよ。我々は我々の世界で生きよう。それがヲワケの民が選んだ道だ。」
「あ…。」
黄金の剣で一突きすると、周囲の景色は変わった。
早送りするように進む世界。
そしてそこはやがて…あの二子山古墳の上になった。
「オホヒコ…ヲワケの民が選んだ道、って何だ?」
「…我々は、1人の生で5つの『世界』を生きるのです。」
「1人で…5つ?」
「私や父の意識は1つですが…全ての民は、朝目覚めるたびに違う自分自身となって1日を始めるのです。」
「おおっ…!?」
オホヒコはルパン一味の目の前で、一気に老人の姿になって見せた。
次は3歳くらいの幼児。
さらには中年の男…。
それは、5人が飛ばされて見たような年齢のずれだった。
5つの『世界』のカラクリはこうなっていたのだ。
「あなた方の感覚で言うと、毎晩違う夢をみるようなものですね。夢から夢へ…ずれた『世界』を順番に回るんです。」
「はぁ〜…そりゃ、忙しいな。」
「そうだな。そして常に他の『世界』には違う自分がいることになる。5つの『世界』の輪が切れぬようにな。」
「ま、待って…!じゃあ、それって永遠に死なないって事になるじゃない!」
「え…?」
「だってそうよ!!5人のうち誰かが死んでも、他の4人は生きてて、死んだ人もまたそのうち生まれるってことじゃない!それって、永遠に生き続けるのと同じだわ!!」
「不二子殿の言うとおりです。我々の概念に、完全な『死』は存在しません。」
不二子が興奮してまくし立てた内容を、ヲワケとオホヒコは肯定した。
違う人生を生きる5人の自分。
だが、全員が一度に死なない限り『自分』はずっと生き続ける。
実質的な『永遠の生』。
ワカタケルはその『力』を狙ってヲワケの国を攻めたのだ。
だがそれはあの勾玉の力が行使されることによりもう一つの『世界』、『サキタマノクニ』を生み出してワカタケルの世界からは消えた。
ヤマトノクニのオオキミとしてヲワケの領土を手に入れた代わりに、ワカタケルは永遠の命を得ることはかなわなかったのである。
「同じ自分としての生を、永遠に続けるのがサキタマノクニの民だ。しかし…それが幸せかは別だ。」
「え…。」
「私たちはこの世界でたった一つの生を行き、たった一つの時を尊び、たった一つの出会いに幸せを感じて生きた者の末裔…初代ヲワケのあの選択は、あくまで究極の選択だったのだ。」
「たった一つの…生。たった一つの…出会い…。」
無意識に、千汐は隣に立つ五ェ門の手を握っていた。
彼は何も言わず、千汐の肩を抱き寄せた。
この世界でいかに生きるか。
誰と生きるか。
何を幸せと感じるか。
1つしかないから…ただ、懸命に生き、愛するのだ。
その思いは、5人とも一緒だった。
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