5つ目のターゲットマーク
□ 【第十三話】 遥かなる時代の記憶
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『これはまさか…!では、この玉の力は…!』
ワカタケルは首にかけた勾玉に触れた。
それらはバラバラと解け、地面に落ちた。
白く輝くその数は16。
悔しげに顔を歪め、ワカタケルは剣をヲワケに突き付けた。
ヲワケの顔色は変わらなかった。
『貴様…!』
『これは最初から決まっていた事です。この世界を取るか…あの世界を取るか。』
『ヲワケ…謀ったな…!?』
『ワカタケルオオキミ、あなたの欲しかったこの世界…ヤマトノクニはあなたのものだ。望みは適ったはずです。』
『くっ…!』
ワカタケルは剣を地に突き刺し、踵を返した。
ヲワケは地面に散った勾玉を集め、傍にいた女に手渡した。
女は頷き、髪に結わいていた紐を解いて16個の勾玉を通し直した。
白く輝く宝玉。
そこにはもう、ワカタケルの求めた『力』はなかった。
『私たちの役目もこれで終わりですね。』
『終わってはおらぬ。命ある限り、お前達の力は必要だ。』
『…このヒスイの力もいずれ消えましょう。そうすれば、この地の守りは…。』
『いずれ我らの事は忘れ去られるだろう。そうなるまでと心得よ。』
『はい…オオキミ。』
『もう私はオオキミではない。ヲワケノオミ…オホヒコ。それが私の新しい名だ。』
5人は立ち去ってゆくワカタケルの兵と共にその場を離れた。
上空に揺らいでいた世界の影も消えた。
静まり返る草原。
残された夥しい数の埴輪。
これが、2つの『世界』の真実…。
失われた『関東日本王国』の結末だった。
「じゃあ…埼玉の古墳の埴輪って…。」
「全部ではありませんが、今も残る多くが、サキタマノクニに上った者の半身です。」
「あの…赤茶色の埴輪が…。」
空洞の目を虚空に向け、時が止まったかのようにそれぞれの姿を保つ埴輪。
それらの多くがサキタマノクニに上った者の片割なのだとオホヒコは言った。
単なる古墳の装飾ではない。
彼らは、遥かな時代に失われた世界の記憶なのだ。
「お宝は、あの白玉の首飾りか…?」
「埼玉県の旗をご存知ですか?」
「旗…?」
「あっ…!あのマークって…!!」
県の旗 勾玉十六 心の輪。
埼玉郷土かるたの札にもある埼玉県旗には、互い違いに並べられた16個の勾玉が図示されている。
「埼玉」の語源になったとされるのは「幸魂(さきみたま)」。
それを現すとされる勾玉の形…。
今もこの地の象徴としてそれが旗に図示されているのは単なる偶然ではない、とオホヒコは言った。
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