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□ 【第十三話】 遥かなる時代の記憶
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「五ェ門…?」

「帰らないでくれ…。」

「え…」

「そなたが好きだ…。」



耳にかかる吐息。

震える声。

同じだった。

ドクン、ドクン、と鼓動が早くなる。

床に転がった懐中電灯の先には大きな扉。

その前で、五ェ門は千汐を抱きしめていた。



「…一目会った時から、拙者はそなたに惹かれていた。こんな気持ちは初めてだ…。」

「五ェ門…。」

「そなたの『世界』では同じ石川五ェ門という男が待っているのだろう…だが、そなたを愛しているのは拙者も同じだ…。」



声も、温度も、その鼓動も同じ…。

千汐はその身体をぎゅっと抱きしめ返したい衝動に駆られた。

でも、帰らなければならない。

待っている人のところへ戻らなければならない。

今にも泣き出しそうな五ェ門の身体をそっと押し返し、千汐は首を振った。



「私もそう。どこにいても…五ェ門が好きだよ。」

「千汐…。」

「だけどそれはね、この『世界』の私も同じだよ、きっと。」

「この世界の…そなたも…?」

「この世界の私から、あなたを盗っちゃうわけにはいかないもん。」



ルパンを知らず、五ェ門を知らず、刺青を背負い、組を背負って生きているこの世界の千汐…。

自分の選ばなかった道を選んで生きているもう一人の自分。

それでも、願わくば同じ人を愛して欲しかった。

共に笑い、愛し合って、同じ幸せを願って…。

そんな風に生きて欲しかった。



「私の世界のあなたがしてくれたみたいに、この『世界』の私を広い世界に連れ出して欲しいの。」

「広い世界に…。」

「私は川越の巴の家にいる。嫌がったら無理やり盗んでも構わないから、五ェ門のものにしちゃっていいよ♪」



軽い調子でそう言うと、五ェ門は笑った。

欲しければ盗めばいい。

盗んで自分のものにすればいい。

愛する人の心も、お宝も。

それが泥棒というものだ。



「そこまで言われては…そうするしかあるまいな。」

「結構大変だよ?頑張ってね。」

「フフフ…では、そなたは返さねばな。行け、そこの扉の向こうだ。」

「えっ…?」

「分かるのだ。その向こうに、そなたが戻るべき場所がある。」



五ェ門の指差した先。

扉の隙間から、青い光が漏れていた。

そして、誰かがいる気配がした。



「五ェ門…!」

「振り返ってはならぬ!行け…!」



千汐は扉を力強く押した。

あふれ出る青の洪水。

そこに入った瞬間、千汐は再び誰かの腕に抱き止められた。



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